「色柄を持たないパンツはく山崎すぐると、彼の担任の中村大悟」
番外編05 プールサイドのヤンキーたち 1980
なつ休みの絵日記
市立第二小学校 1年3組 氏名 さいとう しゅん一
8月10日 お天気 はれ ときどき くもり
九しゅうのおじいちゃんのところへとまりがけでいった。
おじいちゃんが、でっかいビニールプールをかってきてくれた。
ぼくは、すいえいパンツをもっていなかった。
おじいちゃんが「しゅんいちは、おとこやけん、パンツいっちょでよか。」といった。
ぼくは、おじいちゃんと、パンツいっちょでプールであそんだ。とてもたのしかった。
そのあと、パンツがかわくまで、えんがわにすわって、スイカをたべた。
おばあちゃんが「にっしゃびょうになったらいかんけんね。」と、むぎわらぼうしをかしてくれた。
パンツがぬれていたので、えんがわにぼくのおしりのあとがついた。
ペタン、ペタンとはんこみたいでおもしろかった。
6月中旬 ある日の5時間目。
中村大悟が通う、市立三中の3年A組とB組の男子たちの体育・水泳の授業が始まろうとしていた。プール設備の広さの関係から、男子と女子は、同時ではなく、交互に水泳の授業を行っていた。
体育担当の池永は、3年B組担任。大悟のA組の担任・吉田(社会科)とともに、いつも竹刀を持ち歩き、特に男子の生徒指導に熱心な教師の一人だった。
市立三中の水泳プールは、屋外25mプールで、コース数は7、水深は1.1~1.4メール。当時の日本水泳連盟プール規則に則った中学生用競泳プールだった。
そんなプールの端壁上面の一段高くなったところに立つ池永教諭。
プールサイドに整列する男子生徒の地味な濃紺スクール海パンとは一線を画す、深紅(しんく)のビキニ海パンで決めていた。それはまるで、まだまだケツが青い中学生のガキどもと俺とは違うぞという、30代前半の大人の男の渋さを強調しているかのようにも見える。プライベートで、スイミングスクールのコーチでもすれば、生徒である中年女性をブイブイいわせそうな体躯の持ち主だった。
しかし、ここは中学校の体育の授業。前に整列しているのは、思春期ホルモンをビンビンに放つ、青臭い中三男子たちだった。
そんな中、まだ海パンではなく、体育ジャージ上下のままの姿で、下を向いたまま、池永の前に立っている3B男子生徒3名がいた。
「なに!!海パンを忘れただと!!今週の体育は、いつもと違い、男子が二回連続して水泳だと伝えといたはずだぞ!!」
「そんなの聞いてねぇーよ!!」
まだ体育ジャージのままの3人のB組男子は、三人とも、リーゼントヘアのツッパリたちだ。すなわち、3B男子の中では、教師に対して、一番、反抗的な態度をとっている斉藤俊一、西原健太、細川良介の三人だった。
その言葉に、チッ!と舌打ちする池永。何度言っても、何度竹刀でケツをぶっ叩いても、一向に改まる気配のない、斉藤、西原、細川の自分に対するぞんざいな言葉使いにもううんざりだった。
池永は、斉藤、西原、細川の言葉使いを注意することもせず、
「3B学級委員!!こいつらに、今週の水泳の予定変更をきちんと伝達しなかったのか?」
と、苛立つように質すのだった。
「えっ!やっべぇーー、オレの方に、また、とばっちりがきそうじゃん・・・」
と思ったのは、3B学級委員の木下康介(きのした こうすけ)。
3B木下は、池永が顧問を務める水泳部の主将。3B男子の中では、「とばっちり」で叱られることが一番多い、損な役回りだった。
すぐさま、デカい声で、
「伝えました・・・・」
と言ったまではよかったのだが、
「えっ・・・アイツら、もしかして、あの時、学校抜け出してゲーセン行ってたかも・・・・」
と思い、急に自信がなくなり、やや声を低めて、
「あっ、伝えたと思います・・・・」
と言い直してしまう・・・。
そのことが、池永の「怒りの導火線」に火をつけてしまうのだった。
「伝えたと思いますだと!!どういう意味だ!!きちんと伝えなかったということか?」
「い、いえ・・・伝えたと思います・・・・」
「や、やべぇ・・・」と思った木下は、高く刈り上げたスポーツ刈りの後頭部を真っ赤にさせて、下を向いてしまうのだった。
「A組の奴らは、全員、海パン忘れてねーぞ!!木下!!もっとしっかりしろ!!」
と、木下を叱りつける池永。
「チェッ!!結局、叱られるのは、オレだけかよ・・・やってらんねーよ!!」と思い、木下は、頬をプッとふくらましたまま、今度は、返事もしなかった。しかし、このことが、木下にとんだ災難を及ぼすことになるとは、木下もその時は、まだ想定できないでいた。
「チッ!!どいつもこいつも反抗的な態度をとりやがって・・・。まあ、いい、そのことはまたあとだ・・・」
そう思いながら、池永は、自分の前に立っている斉藤、西原、細川に対して、
「俺の水泳の授業で、海パンを忘れた時の約束を覚えているな!!」
と言うのだった。
池永のその言葉に、池永の前、かつ、A組ツッパリ男子3人組の後ろに整列していた3A、3Bの男子たちはざわめくのだった。
そう、池永教諭の水泳の時間、海パンを忘れた男子は、パンツ一丁で準備運動のみ参加し、あとは、プールサイドにパンツ一丁で正座というのが、約束だったのだ!!
特に、A組のツッパリ3人組である、谷山、岡部、北本は、ニヤニヤしながら、
「この前、オレたちだって脱いだんだぜ・・・パンツ一丁、めちゃくちゃ恥ずかしかったけどよ・・・」
「男だったら、当然、脱ぐよな・・・」
と思う。谷山、岡部、北本の三人は、一学期、最初の水泳の授業の時、三人仲良く、海パンを忘れ、池永との男同士の約束を履行させられていたのだった。
3Bの斉藤、西原、細川の三人は、恥ずかしさで、耳まで真っ赤になっていた。
彼ら3人としては、池永に対して、徹底的にゴネて反抗し、または、その場から逃げだして、罰を受けずに済むことも可能であったかもしれない。
しかし、ツッパリにはツッパリなりの男のプライドがあるのだ。
すなわち、ツッパリたるもの、たとえば、自分たちが先生からひいきされているなどということは、万が一にもあってはならないことだった。
「池永も、自分の担任のクラスのヤツには甘いよな!!」
「結局さー、アイツらみたいにさー、先生の前でゴネれば、罰を受けなくてすむってわけだよな!」
「それって、もしかして、ゴネ得ってことですかーー!?」
「アイツら、この前の体育の時間、逃げたんだぜ。ダッセー!!」
などなど、もし、そんな噂が学校中にひろまってしまうのならば、もう彼らのツッパリ人生は終わりなのであった。
やんちゃはするが、もしそれが見つかったならば、こそこそと逃げたりはしない。男たるもの、罰は、いさぎよく正々堂々と受ける!!それが、当時のツッパリ男子の信条だったのである。
斉藤、西原、細川の三人は、前からは、池永の視線を、そして、後ろからは、A組B組男子37名の視線を、ビンビンに感じていた。
そんな中、
「忘れるわけねーだろ!!ったく、なめんじゃねぇよ!!脱いでやるよ!!恥ずかしくなんてねーよ!!」
と、A組ツッパリグループの中でもリーダー格の斉藤俊一が、体育ジャージの上下を、惜しげもなく、脱ぎ捨てるのだった。
斉藤俊一は、小1の夏休み、九州のおじいちゃんが言った、
「俊一は、男やけん、パンツ一丁でよか!はずかしくない!!」
との言葉を思い出しながら、自分を奮い立たせていた。
そして、白ブリーフ一丁になると、自分の前の一段高いところに立っている池永を、睨みかえすのだった。
斉藤に続いて、西原、細川三人も、体育ジャージの上下を脱ぎ、白ブリーフ一丁になる。
三人とも、髪型はリーゼントヘアーでつっぱってはいるが、パンツは、仲良く、グンゼの<中高生用>ブリーフのMサイズ。どことなく、かわいらしかった。しかも、一週間ほど前にあったばかりの「パンツ名前検査」で、三人は、生徒心得で定められたパンツ所定の場所に、クラス名と苗字を、黒マジックでしっかりと記入してあった。
そんな三人の白ブリーフ一丁に姿をニヤニヤしながら眺めつつ、体育教師の池永は、
「よし!ジャージをきちんとたたんで、向こうの濡れないところに置いて来い!!戻ってきたら、元水泳部員のおまえらには、準備運動の手本を示してもらう!!」
と指示を出すのだった。
池永のその言葉に、再び、整列している3A3Bの男子たちからは、ざわめきが起こるのだった。
斉藤、西原、細川、そして、3B学級委員の木下は、小学生の頃からのスイミングスクール仲間。
木下は、どちらかといえば、おとなしい男子だったが、斉藤、西原、細川のやんちゃのとばっちりを受け、いつも怒られるのは、四人一緒だった。
中学生になり、斉藤ら四人は仲良く水泳部に所属するのだが、顧問の池永のケツ竹刀指導や、先輩たちとの関係などから、斉藤、西原、細川の三人は、中一の夏休みを境に、水泳部を退部してしまうのだった。
そして、中三になり、斉藤ら元水泳部員三人は、池永教諭担任のクラスに振り分けられることになる。それ以来、池永の三人に対する指導は、厳しく熱のこもったものになっていくのだった。
池永の指示に、斉藤、西原、細川の三人は、返事もせずに従う。そして、白ブリーフ一丁のまま、戻ってきた三人に、
「よし!!オレの横に並んで準備運動をしろ!!水泳部の準備運動くらい覚えているだろう!!それから、木下!!お前もでてきて、オレの横で、準備運動だ!!」
と、指示を出すのだった。
木下が、「は、はい・・・」と返事をして前に出てくる。そして、斉藤、西原、細川の三人は、「チェッ!」と言いながらも、一歩前にでて、プールの端壁上面の一段高くなったところに上がって、整列している3A3Bの男子たちの方を向くのだった。
斉藤、西原、細川は、木下を除いた、3A3B男子たち36名の視線が、一斉に、自分たちの白ブリーフに注がれているような恥ずかしい気持ちになり、思わず、両手で、白ブリーフのフロント部分を両手で隠すようにするのだった。
3A3B男子たちの前、一段高いところに並んでいる4人の中三男子と、1人の三十代体育教師。
向かって、右側から、白ブリ一丁・斉藤君、白ブリ一丁・西原君、赤ビキニ海パン・池永先生、白ブリ一丁・細川君、濃紺スクール海パン・木下君のラインナップ。
4人の生徒は、さすがに小学生の頃から水泳をやっていただけあり、きれいに割れた腹筋のラインも美しかった。そして、池永先生も、体育教師だけに、引き締まった身体の中にも、中学生とは違った逞しさが感じられた。すなわち、5人すべてが、パンツ一丁で勝負できる男たちだった。
「よし!!準備運動用意!!小林基準!!体操の隊形にひらけ!!」ピィッ!!
池永のホイッスルとともに、3A3Bの男子36名が、プールサイドにひろがる。そして、
「よし!!その場で軽くジャンプ!!」ピィッ!!ピィッ!!ピィッ!!ピィッ!!
と、池永の指示と、池永の吹き鳴らすホイッスルにあわせて、水泳前の準備運動が始まるのだった。特に、池永教諭の準備運動は、水泳部の顧問だけあり、なかなか本格的で、しっかりやれば、それだけで、かなりのキツさを感じる一般男子生徒もいるほどだった。
やがて、最後の深呼吸で、入念な準備運動が終わる。そして、整列の中に戻ろうとする、斉藤、西原、細川、そして、木下の4人に、池永は、
「おい!!待て!!誰が戻っていいなんて言った!!お前ら4人は、向こうだ!!」
と言い、プール正面のスタート台がある方を指さすのだった。
「えっ!!」
と、思わず声を出す4人。
斉藤、西原、細川は、「えっ!パンツ一丁で・・・」と思い、木下は、「えっ・・・またかぁ・・・今日だけは勘弁してほしいよ・・・週末に食らった竹刀の痕がまだ痛むんだよな・・・トホホ・・・」と思うのだった。
3A3Bの男子たちが、再び、ざわめきだし、事情を知っている一部の男子たちは、お互いに顔を見合わせて、なにかヒソヒソ話をしている。
それは、市立三中・水泳部名物!!「ケツ・ドボン」だった。
すなわち、それは、競泳のスタート前のように、スタート台に立って前かがみになった男子・水泳部員たちのケツを、池永教諭が、竹刀で思い切りぶっ叩き、プールにドボンと落とす、気合入れ・お仕置き法だった。
ただし、これは、非常に危険を伴うため、池永が、特に厳しくする必要があると感じたときのみ敢行されていた、男子水泳部員限定のお仕置き法であった。
「斉藤、西原、細川!!せっかく、準備運動したんだからよぉ、プールに入らないとさびしいだろ・・・ついでに、オレの竹刀で、おまえらのケツに気合入れてやるよ!!昔、水泳部でよくやってやったようにな!!」
と、言うのだった。
他の男子生徒の手前、もう逃げるわけにはいかなかった。その池永の言葉に、斉藤、西原、細川は、元気なくうなだれると、
「わかったよ・・・オレたちのケツ・・・殴りたかったら殴れよ・・・」
とつぶやきながら、スタート台の方へ行くのだった。いつもは突っ張っている三人・ご自慢のリーゼントヘアも、その時は、どことなくヘタって見えていた。
そして、池永は、最近、ちょくちょく自分に対して、反抗的な態度をとる水泳部員で学級委員の木下にも、
「木下!!連絡不行き届きの罰だ!!お前も、スタート台に上がれ!!気合入れてやる!!」
と命令するのだった。
「は、はい・・・」
と一応返事はしたものの、
「どうして、オレだけいつも、アイツらのとばっちりばかしを受けるんだよ・・・まだ、ケツが痛いっていうのによぉ・・・」
と思いながら、スクール海パンの右ケツの下あたりを、右手でちょっと押してみて、顔をしかめる木下だった。
先週末の競泳記録会。男子メドレーリレーのタイムが、参加中学校中、ビリケツの第七位に終わった三中水泳部。四人のチームは、小学生の頃から水泳をやっている部員たちで固めていたが、三年生は、木下康介一人のみ。あとは、中二の後輩部員たちだった。
木下担当の平泳ぎでかなりのタイムを稼いだものの、「康介さんを手ぶらで返すわけにはいかない!!」ならぬ「康介さんをケツ・ドボンに巻きこむわけにはいかない!!」との後輩たちのガンバリを期待することはできなかったのか、結局、記録は、無念の最下位に終わるのだった。
もちろん、三中に帰ってきて木下たちを待っていたものは、顧問・池永の説教と、「ケツ・ドボン」の気合入れだったわけである。
・・・・・・・
「よし!!位置につけ!!」
池永らの指示に、木下のみ
「はい・・・・」
と返事し、あとの三人は、「チェッ!」と舌打ちし、スタート台の上に昇り、前かがみの姿勢になって、ケツを後ろの突き出すのだった。
池永は、他の生徒に、「おまえらは、こいつらの気合入れが終わるまでその場で座って待機!!」と命令を出す。
3A・3Bの男子生徒36名は、「体育座り」をして、海パンのケツを、熱くなったプールサイドのコンクリートの上に下ろすと、スタート台の上でケツを出すB組の4人の方に目をやるのだった。
そんな中、一番後ろの、プールの金網に近いところに座っていた3Aの中村大悟は、
「やっべぇ・・・」
とつぶやきながら、体育座りの両足をキュッと閉じて、真っ赤になって、顔には、何かを必死で我慢しているような表情を浮かべるのだった。
そんな中、池永は、水泳場の端に立てかけてあった生徒指導用の竹刀を持ってくると、スタート台からプールに向かって一番右端、すなわち第1コースの上に立つ、斉藤俊一の右側に立つと、プールサイドで座っている3A3Bの男子たち「観客」に、出場選手を、アナウンスするかのように、
「第一のコース!!3B 斉藤君!!」
と、デカい声で言うのだった。
それには、「観客」の3A3Bの男子たちは、大笑い。
<警告:他人のケツを竹刀で打って、その人を水に落としたりすることは、非常に危険な行為です。絶対に真似してはいけません。>
ほどなく、斉藤の白ブリーフのケツをパァ~~ン!!と打つ、竹刀の甲高い音が水上に響いたかと思うと、
「うわぁ!!痛ってぇーーー!!」
と声を上げながら、斉藤が、ドボォ~~ン!!とプールに落ちていくのだった。
「おぉ!!!」
と、プールサイドの3A3Bの男子たちから、どよめきが起こる。
「第二のコース!!3B 西原君!!」
パァ~~ン!!
「痛ってぇーーー!!」
ドボォ~~ン!!
「第三のコース!!3B 細川君!!」
パァ~~ン!!
「痛ってぇーーー!!」
ドボォ~~ン!!
横でそんな音と声を聞きながら、第四コースのスタート台に立つ、木下康介は、いままでにないほど緊張していた。
「やっべぇ・・・次は、オレの番だ・・・右ケツのまだ痛いところにはどうか竹刀が当たりませんように・・・」
と必死で祈っているのだった。
そして、自分の後ろに、池永の気配を感じる。
「第四のコース!!3B 木下君!!」
ブゥ~~~~ン!!!
と竹刀が空を切る音と、その風圧を、ケツと両太腿に感じる木下。思わず、奥歯をグッと喰いしばり、全身に力を入れて両足をふんばり、グッと目を閉じる。そして、
「右ケツのまだ痛いところにはどうか竹刀が当たりませんように・・・」
「右ケツのまだ痛いところにはどうか竹刀が当たりませんように・・・」
と念じるのだった。
しかし、木下の願いも空しく、池永の竹刀は、木下の右ケツの、週末のケツ竹刀の痕がベッタリとついた場所に、パァ~~ン!!と、ジャストミート!!
「ぎゃぁ!!痛てぇーー!!」
と、思わず叫んでしまう。
プールサイドの「観客」たちからは、ドッと笑いが漏れる。
ケツにジンジンと響いてくるケツ竹刀の痛みに、思わず涙目で、グッと顔を上げ、プール水面やや遠いところを見つめる木下。もちろん、木下は、すぐには飛び込まなかったのだ。
県立・緑ヶ丘高校にスポーツ推薦を目指す木下は、日ごろからしっかりと鍛錬を積んでおり、池永の腰を入れたケツ竹刀であっても、その衝撃で水に落とされるということはなかったのだ。しかし、一方、それだけに、池永のフルスイング・ケツ竹刀の威力をしっかりとケツで受け止めており、木下のケツには、池永のケツ竹刀によるアザが、部員たちの中では、いつも一番クッキリと焼き付けられていたのだった。
しかし、「ケツ・ドボン」のお約束は、ケツ竹刀のあと、水に落ちること。
木下は、一呼吸置くと、水音を立てることなく、競泳選手らしい美しいフォームで、入水するのだった。
木下のストイックで美しい飛び込みに、「観客」の3A3B男子たちからは、「おぉ!!」の賞賛の声とともに、拍手が沸き起こるのだった。
「チッ!木下のヤツめ・・・生意気なことしやがって・・・畜生、手がしびれやがる・・・」
とつぶやきつつも、教え子・木下のケツの堅さと、そのケツを竹刀で殴った時、自分が感じた手のしびれから、教え子・木下の成長を感じる池永だった。
もちろん、水から上がってきた斉藤、西原、細川の白ブリーフ三人組には、
「おまえらは、向こうで正座!!パンツ乾かすにはちょうどいいだろう!!」
と、池永から正座が命じられるのだった。
そんな三人を見て、3A3Bのギャラリーたちからは、
「アイツら・・・パンツが濡れて、スケスケだ・・・」
とのヒソヒソ声があがる。
さらに、池永が、ニヤニヤしながら、
「おめえら、熱射病になったら、たいへんだからな・・・」
と、白ブリーフのツッパリ三人組のリーゼントヘアーのてっぺんに、ちょこん、ちょこんと、麦わら帽子をかぶしていくと、3A3Bのギャラリーたちから大笑いが起き、
「ダッセー!!あいつら、小学生みたいだ!!」
との声が上がるのだった。
その声に、正座しながら、悔しそうに唇をかみしめ、ギュッと目をつむる斉藤俊一。九州の祖父の家で、プールで遊んだ、遠い夏の日のことを思い出しながら、祖父が自分に言った
「俊一は、男やけん、パンツ一丁でよか!はずかしくない!!」
との言葉を何度も心の中で繰り返しながら、自業自得とはいえ、池永から与えられた海パンを忘れた罰の屈辱とケツの痛みに耐えているのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一方、水泳の授業が始まり、3A3Bの男子たちが、次々とプールに入っていく。その日の課題は、平泳ぎだった。
そんな中、A組の中村大悟は、すでに平泳ぎをマスターしており、上級者のグループで泳いでいた。もちろん、用意周到に、B組の木下の後ろについて、ケツをしっかり観察しながら、泳いでいるのだった。
そして、大悟の後ろに、怪しげにただよう、クリーム色の粘液浮遊物・・・ユラーリ、ユラーリ、その怪しげな物体はプールの水に漂いながら、大悟の股間から離れ、プールの排水溝の方へと流されていくのだった・・・。