父子ラグビー物語 by 太朗
第三章 封印されたオヤジの思い出 その2
一、東明戦のあった午後
(ニコタマ寮・主務室にて)
なぜ、あんな愚かなことをやらかしてしまったのだろうか?それは、後で冷静になって考えてみると、高野健一自身も呆れてしまうほどに愚かな選択であった。まさに高野のラグビー人生を棒に振ったと言っても過言ではないほどの選択をしてしまった日曜日の午後だった・・・。
東和大ラ式蹴球部・二子玉川寮(通称 ニコタマ寮)。大神宮球場で野球の東明戦(東和大学 対 明和大学の公式試合)が行われる日曜日の午後はいつも静かだった。
特に、その日の午後は、秋季・大学野球リーグの最終戦とあって、ラグビー部員であっても一・二年生は、「レギュラー」「大部屋」を問わず、全員、応援要員として球場へかり出されていた。東和大学・体育会を仕切る応援団からの要請があるからだ。
一方、「レギュラー」「大部屋」を問わず、三・四年生にはその義務はなかった。
その日の午後も、ラグビー部三年生の高野健一は、
「今日は1、2年がいないから、いつもより静かに過ごせるぜ・・・」
と独り言をいいながら、大部屋から2階へおりてくる。その年の夏に膝の故障のためレギュラー落ちした高野は、ニコタマ寮のレギュラー選手用の個室に住む権利を剥奪されていた。それ以来、練習のない日の午後は、たいてい、寮2階にある「マネージャー部屋」である主務室で、一般(非レギュラー)部員の住処である大部屋にはないテレビを見ることが多かったのだ。
「野球部のやつらは、がんばってるかな・・・」
そう言いながら、いつものように主務室の扉をあける健一。そのとたん、
「あ、お前!そこで何してるんだ・・・」
と思わず叫ぶ健一。
健一の目に飛びこんできた光景は、健一にとって、にわかに信じがたい光景だった。主務室の1番奥に置かれている金庫、その扉が開けられており、その前にラグビー部員と思われる学生が一人しゃがんでいたのだ。
学生自治が建前の大学部活動である。部活に必要となる現金等を保管する金庫は、監督やコーチ部屋ではなく、部のマネージャー部屋に相当する場所に置かれていた。もちろん、その金庫には、ラグビー部の重要書類や現金が保管されている。ラグビー部運営のためには重要な金庫であった。そして、その扉は、監督と幹部4年生の立会の下でしか開けられるはずのないものだったのだ。
健一の声に、金庫の前にしゃがんでいた部員は、あわてて立ち上がり、ギョッとした表情をして、健一の方を向く。右手に握られていた1万円札がハラハラと床に舞い落ちる。それは1枚や2枚ではなかった。床に落ちた1万円札を慌てて拾い集めようとする学生。その学生は、その年の夏、高野とともにレギュラー落ちしていた3年生の久住伸照だった。
「ノブ!何してんだ!部の金、使い込んだら、ただじゃすまねーことくらいおまえだってしってんだろう!」
「ケン!た、たのむ・・・今回だけは見逃してくれ・・・来月の監査日までには必ず元通り返しておくから・・・」
「金に困ってんのか、おまえ・・・」
健一のその言葉に、久住は、真っ赤な顔になり、健一の目をみることもできずうつむきながら、
「が、学費が20万たりねーんだ・・・レギュラー落ちしちまっただろ・・・大学のスポーツ奨励奨学金に応募できなくなっちまって・・・」
と言うのだった。
「20万か・・・いつまでに必要なんだ?」
「今月末だ・・・後期の授業料納付の期限日だろ・・・」
「親にたのめねーのか?」
「そ、そんなの無理に決まってんだろ・・・うちはお前んとこみたいな金持ちじゃねーから・・・それにオヤジがやってる缶詰工場の景気も最近よくねーみたいだし・・・好き勝手にラグビーやらせてもらってるんだ・・・これ以上仕送りなんか頼めるわけねーだろ・・・」
久住は、大分県のとある漁師町の出身で、父親はそこで缶詰工場を営んでいたが、決して、裕福な家庭の育ちではなかったのだ。なに不自由のない裕福な家庭に育ち、幼稚舎から高額な授業料のかかる東和学園に入学し、エスカレーター式に当然のごとく大学まであがってきた健一。久住のその言葉を聞き、恥ずかしさがこみあげてくるのだった。
高校時代、高野は東京都代表、久住は大分県代表として、全国高校ラグビー選手権の決勝戦で優勝を争った仲だ。そして、東和大学ラグビー部では、不本意ながら二人揃ってレギュラー落ちし、大部屋では揃って「挨拶板」でしこたまケツをぶん殴られ、その晩、並んで布団にうつ伏せになり、顔を枕に埋めて男泣きに泣いた仲である。高野と久住の「戦友」としての仲間意識は、いままで以上に深いものとなっていた。
高野健一は、どうにかして久住をピンチから救ってやりたいと思う。
「どうしよう・・・このまま授業料はらえねーと、久住は退学させられちまう・・・そうしたら、一緒にラグビーができなくなっちまう・・・」
その時の健一は、焦燥感に駆られるばかりで、完全に冷静さを失っていた。それだけではない。もしその時、レギュラー部員でいれば、健一は、すぐに冷静さを取り戻し、久住に監督に相談するよう促すことができたかもしれない。しかし、レギュラー落ちして以来、気まずさもあってか、部では親代わりともいえる監督を避けるようにしてきた健一にとって、その時は監督の顔さえも思い浮かばなかったのである。
「とにかく部の金は早く金庫に戻せ・・・誰かにみられたら、マジでやばいぞ・・・」
健一の真剣な言葉に、久住は、床から拾い集めて右手に持っていた1万円札20枚を素直に金庫に戻し、思い直したように、
「お、俺・・・休部して、バイトする・・・飯場(はんば)に入ってバイトすりゃ、まだ間にあうかもしれない・・・俺、体力だけは自信あっから・・・」
と言って、自虐的な笑みを顔に浮かべるのだった。
「バカ野郎!!休部したら、もう二度と、レギュラーになんか上がれねーぞ!4年になっても大部屋だぞ!それでいいのかよ、おまえ!」
「そ、そんなこと・・・わかってるよ・・・でも・・・」
「心配すんな・・・金は俺がなんとかすっから・・・」
「ほ、ほんとうか・・・部の雑務があって、おまえだってバイトなんてできねえだろ・・・」
「ああ、それはわかってるよ・・・」
「そ、それに、お、お前だって休部したら・・・」
「いや・・・」
「あ、あてでもあんのか?」
「まあな・・・お前は心配すんな・・・それより、もう二度と、部の金には手をだすんじゃねーぞ!」
「あ、ああ・・・わかったよ・・・オレが悪かった・・・」
「よし・・・じゃ、俺、ちょっと出かけてくるから・・・門限までには戻る・・・」
そういうと健一は、テレビで野球部の試合を観戦するつもりだった主務室を出ていくのだった。
二、東和大学・バンザイ同好会 (東和大学・駒沢キャンパス・学生会館にて)
東京都・世田谷区・駒沢。東和大学・駒沢(こまざわ)キャンパスにある東和大学・学生会館。そこは、大学公認サークルのサークル部屋がある建物だった。
そんな学生会館の2階。「バンザイ同好会・会室」と木製の札がかかったドアの前で、高野健一は、緊張した面持ちで、ドアにかかったもう一つの木製札の文字を読んでいた。
「当会に用のある貴女はドアをノックして下さい。当会に用のある野郎は渾身のバンザイ三唱をすべし!!」
健一は、その札を読んで「チェッ!」と舌打ちすると、そのドアから少し離れて立つのだった。白Tシャツにブルージーンズ姿の健一。体育会所属の男子学生は、日曜日であっても、キャンパス内では詰襟学ラン姿がルールであったが、体育会の学生である健一がサークルの集まる学生会館にいたと噂されたくない事情がその日の健一にはあった。
とはいえ、185cmでガッチリ体系の健一は、その学生会館にあって、いやがうえにも目立つのだった。乳首が浮き出るほどにピチピチの白Tシャツ。それでいて腹回りはキュッと引き締まっていることがTシャツの上からもよくわかる。さらにその下をみれば、ピチピチのジーンズにプリっ盛り上がったケツ。日曜日でにぎやかな学生会館の廊下を歩く女子大生たちの視線が、そんな健一の姿に遠慮なく注がれていた。
健一は、そんな女子大生たちの視線をいやが上にも感じながら、ゴクリと生唾を飲み込むと、集中して自分の世界に入り込むような顔つきになり、デカい声で、
「バンザーイ!!バンザーイ!!バンザーイ!!」
と、両手を挙げながら、バンザイ三唱をするのだった。
健一を取り囲むようにしている学生たちは、ニヤニヤ笑いながらお互い顔を見合わせ何かヒソヒソと話しながら、健一の様子をみている。男子学生の一人が、ニヤニヤしながら、
「アイツら、そう簡単に出てこないッスから・・・用があるなら、でてくるまで、バンザイやるしかないッスよ・・・」
と健一に言うのだった。
「えっ・・・」
驚いたような顔をして、その男子学生の方を見る健一。その学生は、やせて色白の長髪、メガネをかけたいかにもオタク風の学生だった。学生は、二ッと笑うと、
「バンザイ、やり直した方がいいッスよ!」
と健一に言うのだった。
「そんなこと、オマエに言われなくたってわかってるよ・・・」とでも言いたげなムっとした表情をしながらも、健一は、バンザイ三唱をやり直そうとする。
その時だった。健一の前のドアがガバッと突然ひらき、
「おお!!ケン!!待たせてわかるかった!!オマエの声だってすぐにわかったけどよ・・・ちょっと電話対応が忙しくてな・・・待ってたぜ!さあ、入ってくれ!」
と、部屋の中から、白Tシャツに青い法被を着た男子学生が出てくるのだった。
「おーーー!!」
バンザイ三唱1回でバンザイ同好会の会室のドアが開いたことに、廊下にいた男子学生たちから賞賛の声があがる。
「うるせぇ!おまえらは引っ込んでろ!さあ、ケン、早く入ってくれ!!」
部屋の中から出てきた男子学生は、そう言いいながら、大切な客を迎え入れるかのような手ぶりで、健一を部屋の中へと招き入れるのだった。
その学生は、高野と同じ3年生で、東和大学・バンザイ同好会の会長・山本純平(やまもと じゅんぺい)であった。東和大学・バンザイ同好会は、明和大学・バンザイ同盟と並び、関東の大学にあるバンザイ系サークルでは、もっとも歴史があるサークルであった。
山本純平は、高野健一と同じく東和大学付属久我山学園出身で、健一とは中学時代からの同級生であった。 真っ黒に日焼けし、身長は175cmほどで、なかなかガッシリとした体型をしている。中学・高校時代は、高野健一と同じラグビー部に所属していたが、幼稚舎時代からラグビーをやっていた高野とは違い、中学になってからラグビーを始めたこともあってか、中学・高校を通して、久我山学園のラグビー部では一度もレギュラーにはなれなかった。
しかし、その明るい性格と人懐こさからラグビー部ではムードメーカー的な存在。高校になってからは3年間、高野と同じクラスだったこともあり、卒業式では、前日に食った「スタミナ餃子」の影響か、ニンニク臭せー息を高野の顔にはきかけながら、
「卒業しても、俺たち、ずっと親友でいようぜ!」
と、男同士の熱くて臭せー「ズッ友」の誓いを一方的にしてしまうちゃっかり野郎でもあった。
東和大学進学後、純平は健一に、
「ケン、オレさ、おめえみたいにラグビーうまくねーから、援団(えんだん)入って男を磨いて、お前のこと応援すっから、よろしくな!」
と宣言し、応援団の門を叩く。しかし、東和大学・応援団名物 の「闘魂棒ケツ叩き」の洗礼に、一発で根を上げてしまい、ケツ即墜ち、すなわち、応援団を入団初日に退団したちょっと情けねー黒歴史も持つ。
そんな山本純平がいきついた先は、東和大において「援団・ケツ即墜ち野郎」たちが集まるバンザイ同好会であった。そんな山本純平は、バンザイ同好会に入会した日、ラグビー部のニコタマ寮にわざわざ健一を訪ねてきて、健一にバンザイ同好会・会員の名刺を渡し、
「ケン!オレ、おまえの結構式で最高のバンザイみせてやっから!オレのこと、ぜってー結婚式に呼べよ!俺たち、ずっと親友だよな!」
と、「ズッ友」リマインダーをする憎めないヤツだった。
健一が通されたバンザイ同好会の会室は、4畳半ほどの広さだったが、その部屋には不釣り合いなほど立派なソファとテーブルが設えられてあった。その豪華さは、バンザイ同好会の羽振りの良さを雄弁に物語っていた。そのソファの上座にドカっとふんぞり返るような恰好で座る山本純平。テーブルを挟んで、居心地悪そうに小さくなって座る高野健一。山本純平の後ろの壁には、バンザイ同好会のポスターが貼られており、そこには、
「 東和大学・バンザイ同好会では、バンザイ能力向上のため、日々の研鑽を怠らず、現在239種のバンザイを用意し、皆さまからの仕事のご依頼を心よりお待ちしております。 結婚式にイベント、おめでたいところであれば、日本全国どこにでも出張して、バンザイをさせていただきます。今までに見たこともないような洗練されたバンザイ、 最高のバンザイをお届けすることをお約束いたします!」
と書かれていた。
不安そうな表情でそのポスターを見つめている健一に、純平は、
「ケン!まあ、そう心配すんな!ケンの親友は、オレの親友も同然だから、ソイツが退学になるようなことには絶対にさせんから!」
と、ドヤ顔で言うのだった。
「・・・・」
「ケン、それ以上いうな!お前の言いたいことはわかっている。まあ、オレがケンに金を貸すのが1番手っ取り早いんだが、それでは、ケンの気持ちが済まんだろう。そこでだ、さっき電話で話したテレビ番組に、オレの代わりに出て欲しいんだ。」
「その番組、来週の日曜日だろ・・・今から大丈夫なのか?」
「ああ、明和のバンザイ同盟の新垣(あらがき)が、あの番組のプロデューサーと知り合いらしくてな、結構、ワガママ聞いてもらえるらしいんだ。新垣のヤツもケンだったら、大歓迎だって言ってたぜ!」
「そうか・・・それならいいが・・・」
「まあ、大船に乗ったつもりでいろ!オレはいつでもケンの味方だからな!」
そう言って満面の笑みを浮かべる山本純平だった。しかし、健一は、まだ不安そうな表情を隠すことができないでいた。
三、日曜午後の人気番組(ニコタマ寮・監督室にて)
当時、日曜午後の視聴率ナンバーワン番組といえば、民放・桜テレビジョンネットワーク系で放映の「アフタヌーン・ジョッキー」であった。
十月のある日曜の午後、東和大ラグビー部の練習は休みだった。たまたま監督室でその番組を見ていた東和大体育会ラ式蹴球部の青山監督は自分の目を疑った。監督は一緒にテレビをみていた君塚コーチに、
「おい、だれかが高野に命令したのか?あんな恥さらしなことを・・・」
と問いただす。明らかに怒り・苛立っている監督の声だ。高野が大部屋でイジメに遭っているのでは?そんな心配が監督・コーチの脳裏によぎる。
「ま、まさか・・・そこまでは・・・」
「松本をすぐに呼んで来てくれ!それと、島岡と相沢もだ!」
「は、はい・・・」
「高野のヤツ・・・とんでもないことを・・・こりゃ、一揉めあるぞ・・・」
そんなことをつぶやきながら、君塚コーチは、すぐに監督室を出て、学生たちを呼びに走る。
松本はラグビー部の主務で、寮の大部屋長である。高野は秋になり大部屋の副長格である副務の役職についていた。松本は大部屋での高野のことを一番よく知っているはずの四年生だったのだ。
そして、一軍主将・四年生の島岡、そして、高野の幼馴染でもあり、親友でもある三年生の相沢も、寮一階の監督室へ呼ばれるのだった。
「おい!おまえら!これはどういうことか説明してみろ!」
ほどなく監督室に集まった島岡、松本、相沢の三人は、監督が指差すテレビ画面のなかの高野の姿をみて絶句するのだった。
四、日曜午後の応援団風景 その1 (東和大学応援団・親衛隊長室にて)
一方、その時、東和大体育会応援団・親衛隊長室では、テレビ画面を真っ赤な顔で食い入るように見入ってた東和大体育会応援團・親衛隊・第六十七代隊長の田辺純太の怒りが爆発する。
近くにいてニヤニヤしながらテレビをみていた親衛隊長室付きの二年団員・横山に、
「横山!なにがおかしい!団室で白い歯を見せるなと何度言ったらわかる!!」
と、横山の左頬にいきなりバシィ〜ン!とビンタを食らわせたかと思うと、横山が「シタァ!」と挨拶をする間もなく、
「横山!召喚状の用意だ!宛名はラグビー部主将の島岡、要出頭人はラグビー部・高野だ!」
「オ、オッス!」
いきなりの横っ面ビンタに呆気に取られる間もなく、横山は、付き人用の事務机に向かい、毛筆で「召喚状」の準備をする。
「東和大体育会ラ式蹴球部・第五十三代主将・島岡殿
今夕・午後8時マデニ貴部部員・高野健一君ヲ東和大体育会應援團・幹部室マデ出頭セシムルヨウ協力願イタシ。
東和大体育会応援團第六十代親衛隊長・田辺純太」
親衛隊長・田辺はそれでもおさまらず、もう一人の付き人・二年団員の亀田に、
「風紀が乱れきっておる!闘魂注入だ!一年団員に総員集合をかけィ!!体育会学生会館前だ!」
と命令する。体育会学生会館とは、大学及び体育会公認の運動部がその公式部室を置く、キャンパス内の建物である。
「闘魂注入には、俺たちも去年、さんざん泣かされたよなぁ・・・」と思いながらも、「オッス!」と返事をすると、亀田は、親衛隊長室を飛び出して行く。
田辺親衛隊長は、隊長室の神棚下の壁にうやうやしくかけられた、先端に房のついた直径5cmで、長さは1m10cmほどの、飴色に輝く「闘魂棒」を握り締め部屋を出るのだった。
その棍棒の腹には、墨黒鮮やかに、「これぞ東和男児の魂なり 魅せんか男の心意気」と太々と書かれていた。
五、準決勝!ケツ割り箸折り競争(桜テレビ・Rスタジオにて)
東和大ラグビー部のニコタマ寮で、そして体育会会館前で、台風級の嵐が吹き荒れそうな気配が感じられる中、高野は、都心の一等地、六本木(ろっぽんぎ)のど真ん中にある桜テレビ東京本社ビル別館七階のRスタジオで、「東和大代表・高野健一」のゼッケンをつけて、一般参加・大学生の一人として、「アフタヌーン・ジョッキー」の人気コーナー「おケツ自慢、全国男子大学生選手権大会!」の生放送収録に参加していた。
ポキッ!ポキッ!ビシッ!ベシッ!
「絶対に負けられねぇ〜んだ!こいつらには・・・・」
ポキッ!ポキッ!ビシッ!ベシッ!
「オラッ、もう一本!軽いぜ・・・」
スタジオの一般番組観覧者たちは、割れんばかりの拍手と大爆笑。
「おい!アイツ・・・東和の高野じゃねぇか?」
「マジかよ・・アイツがこんなとこにいて、マジ、ヤベェんじゃねぇ?」
と、スタジオに集まった東和大の男子学生の間からは、そんなヒソヒソ話が聞こえてくる。彼らにとっても、東和体育会の「無断テレビ出演禁止」の規則は周知の事実だった。もちろん、そんなヒソヒソ話は高野の耳には届かなかった。
「ほら、もう一丁!絶対に、優勝する!ノブのために優勝せにゃならん!」
ポキッ!ポキッ!ビシッ!ベシッ!
ポキッ!ポキッ!ビシッ!ベシッ!
高野は、準決勝に進出した他の四人の男子大学生とともに、「東和大・高野健一」のゼッケン以外は当時の男子大学生の標準下着である白ブリーフ一丁で、カメラ、すなわち、全国のお茶の間にケツを向けていた。選手権・決勝進出へ向けて、ポキッ!ベシッ!とただひたすらに、そのムッチリとしたケツの谷間に割り箸を挟み込み、その割り箸を次々に折っている。
高野たち4人がはく白ブリーフのバックの部分はTバックのように細くなり、両ケツペタの谷間にグイッと食い込んでいる。そしてそこにブリーフのTバックラインとは垂直に(すなわち水平に)1膳の割り箸が挟みこまれていた。高野たち4人は、両ケツをキュッと閉じる圧力とそれにあわせてケツの谷間にグイグイっと食い込む白ブリの綿生地の圧力とで割り箸を二つにへし折る競争をしていたのであった。これが、全国最強のケツを持つ男子大学生を決める「おケツ自慢、全国男子大学生選手権大会!」の準決勝「ケツ圧上昇??割り箸ケツ割り大競争!!」であったのだ。

一定時間内にできるだけ多くの割り箸を折ることがこの準決勝ゲームの目的であり、折った割り箸の本数が多かった上位2名が決勝戦へと進める。
この「おケツ自慢、全国男子大学生選手権大会!」であるが、1回戦は、8人の学生たちが赤フン一丁で「美ケツ度」を競い合う。すなわち、1回戦が8人、準決勝が4人、そして、決勝は2人の合計3回戦で優勝が決まるおケツ自慢コンテストなのである。「全国」と銘打っている割には人数が少ないと思われるかもしれないが、毎週放映されるお昼の番組の枠内で、月1回30分にも満たない尺で生放送されるコンテストなので、この人数が限界なのである。
ちなみに、1回戦で、学生たちの美ケツ度を審査するのは、ファントムマスクをした女子大生50名と、この番組を担当する桜テレビ随一のカリスマ・カマキャラ・プロデューサー猫山のぼるの「ニャーゴ!集合よ!」の一鳴きで全国から集まってきた、野郎のケツには女よりもチトうるさい、全国のゲイバーの「お母さん」たち50名であることを付け加えておきたい。
もちろん、ラグビーで鍛えた高野の浅黒く逞しいプリケツは、番組史上初の100点満点を獲得し、余裕で2回戦となる準決勝へ進出したわけである。
スタジオの一般番組観覧者たちの笑いが渦巻く中、
ポキッ!ポキッ!ビシッ!ベシッ!
ポキッ!ポキッ!ビシッ!ベシッ!
と順調に割り箸を両ケツ圧で割り続け、トップを独走する高野のケツを見ながら、プロデューサー猫山の目がギラリと光る。
猫山は、スタジオの隅で決勝戦に向けて控えている赤いプロレスパンツ一丁のガチムチ中年オッサンに耳打ちをする。
「廿楽(つづら)ちゃん・・・今日もよろしく・・・あの子!あのムッチリしてるけどキュッと引き締まったお尻のキュートな東和の子ね、あの子が今日のチャンピオンよ、おわかり?!頼んだわよ!」
「はい、任せといてください!決して手荒な真似などいたしません!」
「シッ!あんたの声はいつも大きいの!さあ、そろそろ時間だわね・・・」
と猫山はつぶやく。
ポキッ!ポキッ!ビシッ!ベシッ!
ポキッ!ポキッ!ビシッ!ベシッ!
ポキッ!ポキッ!ビシッ!ベシッ!
ポキッ!ポキッ!ビシッ!ベシッ!
決勝戦進出をめざしラストスパートをかける四人の男子大学生。それぞれ、賞金20万円をかけて、いや、母校の名誉をかけて、割り箸を二つに折るケツにもますます力が入るのだった。
ついに、猫山が番組のアシスタント・ディレクターに目で合図する。
スタジオ中に、ピィ〜!とホイッスルの音が響き渡り、準決勝が終わりを告げる。
「はい!止めて下さい!パンツのお尻の部分をお尻の谷間からもとの位置に戻してください!!!!」
と、番組司会のアナウンサー・御手洗一郎(みたらい いちろう)が、白ブリーフのバックをケツの谷間にグイッと食い込ませTバック状態にし、そこに割り箸を挟み、両ケツをギュッギュッと引き締め割り箸を必死で次々と折り続ける高野を始めとする男子大学生たちを制止する。
かれらの後ろにうず高く積もった二つに折られた割り箸の山。もちろん、高野の後ろの山が一番高かった。
六、日曜午後の応援団風景 その2 (東和大学・体育会学生会館前にて)
「整列だ!」「整列!」
と、東和体育会学生会館の前に集まった青々とした五厘坊主に応援団の黒ジャージを着込んだ一年生団員たちを前に、田辺親衛隊長が号令をかける。
「オッス!」
の応答がキャンパスに響き渡る。
両腕を後ろに組んで、足を肩幅より少し大きく開いて、一年団員12名が緊張の面持ちで整列し、親衛隊長の次なる言葉を待つ。
「最近!我が東和体育会全体の空気は!ユルユルに弛んでおると思わんか!?どうだ!君たち!」
「オッス!」
そもそも一年団員は、「オッス!」の返事しか許されていない。
「よし!君たちもそう思うだろう!」
と、親衛隊長は一年団員の返答に満足げだ。
「オッス!」
「それならば!我々、応援団員が、まず率先して、自らに気合を入れるべきではないか!?」
「オッス!」
そう応えながらも「よっしゃ!待ってました!気合入れ一丁お願いします!」と思っている一年団員は皆無だった。
ほとんどの一年団員は、
「あぁ・・・また気合入れか・・・この調子だといくらケツがあってももたんぜ・・・」
「トホホ・・・またなにかあったのかな・・・こんどはどの部が負けたんだよ・・・俺たちのケツはいつも先輩の欲求不満のはけ口だからな・・・たまらんよ・・・」
と心の中ではそう思い、ケツをピクピクと引きつらせているのだった。
親衛隊長は、
「よし!男の気合とはこれすなわち闘魂である!よって、これから君たちに闘魂をたっぷりと注入することとする!いいか!」
と宣言する。
「オッス!」
と一年団員が一糸乱れず叫んだかと思うと、一番端で整列していた団員が、スクッと右手を挙げ、
「中田、基準!気合入れの隊形に開け!」
と号令を掛ける。
「オッス!」
と、一年団員は自分たちのリーダーに返事をし、後ろで組んでいた両腕を「小さく駆け足」の腕の格好をして肘を曲げて脇にピシッとつけ、右向け右をしたかと思うと、小さく駆け足のキビキビとした動作で、親衛隊長から闘魂を頂戴するのに適当な間隔に広がるのだった。そして、再び親衛隊長の方を向き、両腕を後ろに組んで、足を肩幅より少し大きく開いて立ち、
「オッス!闘魂注入!お願いします!」
とあらん限りの雄たけびをあげるのだった。
「よし!回れ右してケツをうしろへ出せい!」
とついに田辺親衛隊長の「決めゼリフ」が発せられる。
学生会館前のギャラリーたちのニヤニヤ笑いも顔からスっと消え、ギャラリーたちは全員ゴクリと生唾を飲み込む。そして、全員、条件反射のようにケツ筋ピクピク緊張させている。学生会館前での一年団員に対する闘魂注入の儀式は、もちろん、体育会所属の男子学生たちに対してプレッシャーを与えるための見せしめの儀式にもなっていた。親衛隊長にとって、周りのギャラリーたちは大歓迎の存在であった。
体育会所属の男子学生たちには、試合で負けて「お前ら気合がはいっとらん!」と、いつなんどき応援団から召喚状が届くかもしれない。そうなれば、東和大・体育会学生、すなわち、東和男児として、援団からの召喚状を拒否することはできず、目の前の援団・一年生のように「闘魂注入」を覚悟しなければならない。またもし「召喚状」までにはならなくとも、部活の先輩・コーチ陣の機嫌を損ねれば、応援団の「闘魂棒・出張サービス」がいつ何時やってくるかもしれない。まさにそれは、明日はわが身、いや、明日は我がケツの運命だったのだ。
七、決勝進出者発表!(桜テレビ・Rスタジオにて)
桜テレビRスタジオではコマーシャルの間に、番組のマスコットであるビューティーガールズたちによって割り箸の本数が数えられ、いままさにその結果が発表されようとしていた。
いかにもムッツリ助平そうな黒ぶちメガネをかけたアナウンサー御手洗一郎(みたらい いちろう)がマイクを持って発表する。
「それでは、決勝戦に進出する、一人目の豪ケツ野郎を発表します!」
ライトが消され、シィ〜ンと静まり返ったスタジオに、ドラムの音だけが打ち鳴らされる。
「決勝進出一人目は!準決勝第二位通過!その強ケツ圧で45本の割り箸をへし折った、明和大学・バンザイ同盟所属・新垣大典(あらがき だいすけ)君です!」
白ブリーフ一丁にゼッケンをつけて壇上に並ぶ四人の大学生の内、一番右端にいた大学生にスポットライトがあたる。
「オ、オレ・・・マ、マジ・・・」とでも言いたげに、驚いたような表情の演技をして、人差し指で自分の鼻を盛んに指す新垣だった。そして、バンザイ同好会会員らしく、「バンザ〜イ!」「バンザ〜イ!」と何度も何度も両手を挙げて叫ぶのだった。
新垣大典は、当時、自称・肉体派・男子大学生たちが、その賞金を目指して「からだを張って」競って出演していた「根性試しガマン競争系番組」の常連出場者だった。新垣はすでに桜テレビのライバル局である大和テレビジョンネットワーク系放送の「ザ・
シゴキ 〜野郎たちよ己の精神と肉体の限界に挑め!〜」では優勝の栄冠を勝ち取っており、その界隈では有名人。テレビ出演は慣れたもので、ちょっとした学生タレントであった。
再び、スタジオのライトが消されると、ドラムの音が打ち鳴らされる。そして、アナウンサー御手洗の声がスタジオ、そして全国のお茶の間に響き渡る。
「それでは、決勝戦に進出する、二人目のおケツ自慢を発表します!二人目は!準決勝第一位通過!その強ケツ圧で48本の割り箸をへし折りました・・・オォッと、これは番組始まって以来の大物が登場です!二人目の決勝進出者は、78本の割り箸をその豪ケツでへし折った、東和大学・体育会ラグビー部所属!!!高野健一君です!!!」
大学ラグビーの花形スター選手、東和大・ラグビー部・高野健一の名前に、あらためて、スタジオ中の見物人からどよめきの声があがる。そして、左から二番目にいた高野健一にスポットライトがあたるのだった。
八、召喚状(ニコタマ寮にて)
「なに!体育会ラグビー部の名前まで出すのか!高野のヤツめ!どこまで恥さらしなことを!」
と、テレビの前で、真っ赤な顔で爆発寸前の東和大ラグビー部の青山監督。
四年生の島岡と松本は、
「高野・・・なんてことを・・・もうオレは庇ってやれんぞ・・・」
「高野・・・とんでもないことを・・・いったいなにがあったんだ・・・」
と思うのだった。
そして、高野の幼馴染で同期でもある三年生・相沢は、監督に負けず劣らす真っ赤な顔で両拳を握ったかと思うと、スクと椅子から立ち上がり、テレビの画面を指差しながら、
「あ、あれは・・・た、高野ではありません!じ、自分は絶対に信じられません!し、失礼します!」
と吐き捨てる様に言うと、監督室から飛び出していくのだった。相沢の目からは涙が溢れ落ちていた。
相沢によって開け放たれた監督室の扉の前に、メッセンジャーボーイの一年生部員が立っていた。
「塚本!何の用事だ!」
といらだたしそうに、その一年生をにらみつける大部屋長の松本。
「やっべぇ、いま、マジ雰囲気悪りィよ・・・」と背中からは冷や汗たら〜の一年生・塚本は、
「は、はい!失礼します!応援団から伝・・・・」
と、いつものデカイ声で先輩に用件を伝えようとする。
ハッとして監督の顔をみる島岡と松本。そして、松本は、その一年生の言葉をあわててさえぎり、
「バカもん!そんなこと、監督室までわざわざ来て報告することではない!主務室で正座して待ってろ!」
と、叱りつけるのだった。
「えっ、また正座ッスか・・・」とガックリと肩を落とし、その場を立ち去る一年生の塚本だった。
思わず顔を見合わせる島岡と松本。心配そうな顔の島岡に、大部屋長・松本が、「オレが行ってみてくる・・・」と目で合図し、
「ちょっと失礼します・・・・」
と監督に挨拶し席を立つ。監督は、松本の挨拶にも気がつかないほど、くいいるようにテレビの画面をみつめたままだった。
「オレはいつもの通り報告しにいっただけなのに・・・なんで正座なんだよ・・・トホホ」とでも言いたげな不満そうな顔をして、寮の廊下をトボトボと歩く一年生部員・塚本を、
「おい!塚本!待て!応援団からなんの連絡だったんだ?」
と、後ろから呼び止める松本。
ギクッとしながらも後ろを振り向く一年生・塚本。そして、塚本は松本の前に直立不動の姿勢で立つと、
「は、はい!これを主将に届けるようにと・・・」
と言って、一通の封筒を島岡に手渡すのだった。その白い封筒の表には墨黒々と「召喚状」と書かれていた。
それをみて、「これはヤバい・・・」と思いながらも、1年生の手前、表情を変えることなく、松本は塚本から「召喚状」を受け取るのだった。そして、
「ごくろうだったな・・・もう戻っていいぞ。」
と、塚本にやさしく声をかけてやるのだった。
大部屋長・松本のやさしい声かけに、塚本の顔は思わず紅潮する。そして、主務室での正座がなくなったことを喜ぶかのように、
「はい!ありがとうございます!」
とうれしそうに声を張り上げて挨拶をし、玄関入ってすぐのところにある部のメッセンジャーボーイの待機部屋である「管理室」へと戻っていくのだった。
九、高野と新垣(桜テレビ・Rスタジオにて)
スポットライトがあたった高野健一は、新垣とは対照的に、ちょっとひきつった顔をしながら、ぎこちなく無愛想に一礼するだけだった。
その場をとりつくろうように、アナウンサー御手洗が、
「おっと!高野君、緊張しているようですね!今の気持ちは?」
とマイクを向けてくる。
「えぇ・・・は、はい・・・け、決勝、がんばります・・・」
と、高野は真っ赤な顔で答えるのがやっとだった。
パラパラとスタジオのギャラリーから拍手が起こる中、もう一人の決勝進出者である明和大の新垣は、
「あの東和の高野が俺の相手か・・・相手に不足はないぜ・・・歴史に残る明東戦といこうじゃねぇか!」
と密かに闘志を燃やすのだった。
「それでは、新垣君と高野君には、決勝戦の準備をしてもらいましょう。」
とアナウンサー御手洗が宣言する。
高野と新垣は決勝戦の準備のため、スタジオの裏舞台へと一時引っ込む。残ったアナウンサー御手洗が、場つなぎに放送される曲目の紹介を始める。
「おぉ〜と!こんな大胆な曲を、お昼から流していいのでしょうか!全国の野郎ども!ティッシュの準備はいいか?!おまえらが待ちに待ったこの新曲!ビューティーガールズのおねえさまたちが、我がアフタヌーン・ジョッキーのために、来月リリース予定の新曲をこれから初披露してくれま〜す!ビューティーガールズの新曲『後ろから前から責めて』です!さあ、どうぞ!」
スタジオには、妖艶な前奏曲が流れ始め、なんとも破廉恥な衣装に身をつつんだビューティーガールズたちが、腰をふりふり唄い始めるのであった。
日曜午後の番組にはにつかわしくない「アフタヌーン・ジョッキー」は、子供にみせるには教育上よろしくない「俗悪番組」として、当時、常に槍玉にあげられていたのだ。
十、日曜午後の応援団風景 その3 (東和大学・体育会学生会館前にて)
緊張の面持ちで整列している一年団員12名に「回れ!右!」の田辺の命令が飛ぶと、「いよいよだ・・・」と覚悟を決めた一年団員たちは、
「オッス!失礼します!」
の応答のもと一糸乱れず田辺の方へ尻を向ける。先輩に尻を向けるとき「失礼します!」というのが礼儀だった。
「両腕上げ!」
「オッス!」
「拳握れ!」
「オッス!」
「両足開け!」
「オッス!」
「尻を構え!」
「オッス!失礼します!」
一年団員全員が、両腕を肩の高さにまで挙げ、左右両拳をグッと握り、いままでよりも股を大きく開きスタンスを決め、入団以来洗濯してない黒ジャージの黒光りしたテカテカケツを、田辺親衛隊長の方へ、プリッ!と惜しげもなく突き出す。
ニヤニヤ顔を必死で引き締めながら二年団員の横山が、直径5cm、長さは1m10cmほどの飴色に輝く「闘魂棒」を、
「隊長!闘魂注入お願い致します!」
と厳かに言いながら、うやうやしく田辺親衛隊長に手渡す。
闘魂棒を受け取った田辺は、その白手袋をはめた手で、闘魂棒の「これぞ東和男児の魂なり 魅せんか男の心意気」と墨黒々と描かれた部分を丁寧に擦り始める。そのしぐさはまるで闘魂棒から「闘魂」をにじみ溢れ出させるための下準備のようにもみえた。
「覚悟はいいか!!応援団入団以来、日々是鍛錬に励んでいる君たちの尻で、東和男児らしく立派に闘魂を受け止めるところを、俺に見せてくれ!」
と言いながら、田辺は、ケツを向けている一年団員たちの後ろを、闘魂棒をコンクリートの地面にコツコツと「軽く」叩きつけながら歩くのだった。
親衛隊長の闘魂棒の前にプリッと差し出された一年団員のテカッた黒ジャージに包まれたケツは、入団以来、日に日に闘魂棒で鍛え、かわいがられて、たくましくなってきている。援団における一丁前野郎の「堅尻」といっても過言ではない。それは、闘魂棒フルスイングに十分に耐えられる男の中の男の堅尻だった。
一方、あのコツコツという音を聞くと、条件反射のように、一年団員全員はゴクリと生唾を呑み込み、黒ジャージの包まれたケツをグイと引き締め、いよいよ尻に闘魂が注入される覚悟を決める。「君たち」という呼びかけも、一年生団員たちにとっては不気味だった。親衛隊長が、爆発しそうな怒りをどうにか抑えている空気が、嫌でも伝わってくるのだった。
闘魂棒を立派にケツに受け止める東和男児の心意気を「俺にみせてくれ!」との親衛隊長から言われれば、一年団員たちの応答は、一糸乱れぬ「オッス!お願いします!」あるのみだ。成長みられる1年生たちの潔い態度に、田辺は満足そうに頷くと、白手袋の手のひらで、今一度「これぞ東和男児の魂なり 魅せんか男の心意気」の文字を撫でるようにさわりつつ、「闘魂棒」を肩に担いで持つのだった。
一年団員がケツを出して整列している一番端まで来ると、田辺は語気を強めて、
「これから君たちの潔い尻に、闘魂を注入する!闘魂棒は、団旗の次に神聖なるものだ!万が一にも、屁で汚してはならん!尻の穴をしかっりと締めい!」
と命令する。
「オッス!」
といって、両ケツペタをキュッと閉じるようにして、腰にやや力をいれつつケツの穴をキュッキュッとすぼめる一年団員たち。援団における闘魂注入は、野球部員たちへの試合前の闘魂注入とは違う。スラパンなどはくことは許されない。黒くテカッたジャージのケツの下は、ブリーフ一丁、あとは、団で鍛えたケツ筋が自慢の己のケツっペタのみ。「闘魂棒」を受ける準備は万端に整ったのだ!
「準備はよいか!」
と、大声で聞く田辺。
一年団員たちの
「ウォス!」
の気合の怒号。それは、東和大キャンパス全体に響き渡るような迫力であった。
そして、親衛隊長・田辺は、おもむろに一番端でケツを出している一年団員の後ろやや斜め横に立ち、闘魂棒をバットのようにして構え、その突き出されたジャージのケツに狙いをしっかり定め、
「東和必勝!闘魂注入、イクぜい!」
と叫ぶのだった。
田辺は、黒ジャージのケツのド真ん中よりもやや下、ジャージのケツが最もテカッた部分に狙いを定める。そこがもっとも闘魂注入に「効く」ケツの場所なのだ。ケツ筋で肉厚になったケツの一番効く場所に、情け容赦なく、いや、惜しげもなく闘魂を注入されれば、ケツはパンパンに腫れあがり、その後、すくなくとも一週間は、痛くて椅子にも座れない。しかし、そこは「オレだけじゃねぇ、アイツもガマンしてるんだ!」と忍の一文字、グッと我慢して椅子に座れば、座るたびにいやでも「東和魂」「闘魂」を思い出す。そして、そのたびに、東和男児の気合がみなぎるのだ!
十一、ミリタリー廿楽(つづら)の根性棒 (桜テレビ・Rスタジオにて)
ビューティーガールズの破廉恥な曲がけたたましく流れる中、桜テレビ・Rスタジオ・103号楽屋では、元プロレスラーのタレント、ミリタリー廿楽(本名、廿楽源次郎 つづら げんたろう)が、赤いプロレスパンツ一丁で、アシスタント・ディレクター(AD)からの「呼び」を待っていた。
プロレスラー引退後、プロレス解説者兼タレントに転進した廿楽。しかし、人気プロレスラーだった廿楽にとっても芸能界はそう甘くはなく、食っていくための日銭を稼ぎ出すため「アフタヌーン・ジョッキー」のような「俗悪番組」にもお呼びがかかれば厭わず出演しなければならなかった。
「廿楽さ〜ん!出番です!よろしくお願いしま〜す!」
と番組のADが廿楽が座っている後ろの掛かった楽屋暖簾をひょいとめくって顔をのぞかせ声をかける。
「はい!よろしくお願いします!よっしゃ!一丁いくか!!」
と言うと、廿楽は傍らに置いてあった「根性棒」と書かれた直径5cm、長さ1m10cmほどの飴色に黒光りした棍棒を握り締めるのであった。さらに、その棍棒の腹のド真ん中には、廿楽の自筆で
「男は我慢」
と墨黒鮮やかに書かれてもいた。そう、ぶっ倒れるまで我慢するのが男の美徳だった時代なのである。
「おケツ自慢、全国男子大学生選手権大会!」の決勝戦は、数年前から、廿楽がその「根性棒」で学生のケツを叩き、学生がそのケツ叩きを何発ガマンできるか競わせる「ガマン大会」となっていた。
戦前・戦中と日本海軍の海兵団で鍛えられた廿楽にとって、棍棒でのケツ叩きは、ほろ苦い青春の思い出であった。新兵の時は、それで軍人精神をたっぷりケツから注入され、そして、上官になってからは、時には、血気盛んな新兵をつけあがらせぬよう、渾身の力で新兵のケツを叩き、新兵たちに軍人精神の何たるかを厳しく教え、また時には、精神棒に多少の手加減を加えて武士の情けをかけてやり、新兵たちを手なづけていた。
そんな海兵団での経験から、廿楽は、完全なポーカーフェース、すなわち、顔色一つ変えずに、そして、その「バッティング・フォーム」を全く変えずに、根性棒でケツを打ちのめす際の強さを自在にコントロールすることができたのだ。現代の男子学生のケツを、渾身の力で打ちのめす「演技」をすることができる廿楽。そのテレビ映えする「根性棒ケツ叩き」は、たちまちお茶の間からの好奇の目を釘付けにし、その「ガマン大会」は、一躍、「アフタヌーン・ジョッキー」で一番の人気コーナーにまでのし上がっていたのである。
一方、ビューティーガールズの歌が終るまで、スタジオの端で待機している高野と新垣。二人とも、白ブリーフ一丁、ゼッケンを両肩からかけてその紐を両脇で結びつけているだけであった。
桜テレビ随一のカリスマ・カマキャラ・プロデューサー・猫山のぼるが二人に近寄ってきて、まるで品定めするかのように二人の男子大学生のみずみずしい身体を上から下へと舐めるようにながめながら声をかけてくる。
「新垣ちゃ〜ん!お・ひ・さ!見たわよ〜大和テレビの『ザ・シゴキ』。なかなかいい味だしてたわね。今回優勝すれば、あんたもスターね。でも、スターへの道はそう甘くはないのよ。おわかり?こっちのお尻叩きは『ザ・シゴキ』より格段に強烈よ。覚悟なさ〜い!」
そういうと猫山は、「徒然草」第六十段・真乗院の盛親僧都の話にでてくる「白ウルリ」のような真っ白でヌルッとした指で新垣のブリーフ一丁のケツをさわってくるのだった。
「は、は、は〜い、わかってま〜す・・・」
と、喘ぎ声が混じった返事をする新垣。
それをわき目でチラリ・チラリと見ていた高野は気持ち悪くて鳥肌が立つ思いだった。
「こいつら・・・ホモなのか・・・」
なんとあろうことか、新垣のブリーフの中のイチモツは、石のようにコチコチビンビンに怒張し、いまにもブリーフの生地を突き破り、飛び出しそうな勢いであることが、高野の目にもはっきりとみてとれたのだ。
「まぁっ!新垣ちゃんたら、元気がいいのね!あいかわらずお尻が感じるのね〜。パンツの中の坊やも随分と欲求不満みたいね・・・そうだわ!・・・優勝したら、あんたのこと遊びにつれてってあげるわ!」
「ほ、本当っスか?いや〜、うれしいッス。」
「ええ、もちろんよ。でも、それまではガマンよ。おわかり?TPOをわきまえて!カメラの前であんたの腕白坊主が絶対に暴れださないようにしっかり躾けておいてね!」
「も、もちろんッスよ・・・安心してください。」
今度は、高野の方に猫山が近づいてくる。
「あんたが高野ちゃんね!」
そう言いながら、猫山は、やはり、高野のブリーフ一丁のケツをなんともいえない微妙なタッチで撫で回してくる。
「さすが、ビー部の男子(こ)ね!ほんと、堅くていいお尻してること!もうコリコリしてて逞しいんだから!ムフ・・・」
猫山に尻を撫でられ、ゾクッとして思わず尻を引きそうになる高野。「挨拶板」の洗礼の方がずっとましだった。しかし、そんな高野も猫山の機嫌を損ねては自分の優勝はないと、その場の空気をすでに読んでいるのか、ケツを撫で回される気持ちの悪さをグッと我慢し、ケツを引きたくなるのを必死でこらえて、逆に、もっと俺のケツさわって下さいといわんばかりに、猫山の方へ白ブリーフのケツをプリッと突き出すのだった。そんな高野に、ますます機嫌がよくなる猫山は、
「今回はあんたが優勝よ・・・だから、、、おわかり?ナイス・リアクション・・・しっかり頼むわよ!」
と、新垣には聞こえないようなささやき声で高野に言う。
猫山のその言葉に心臓がドキドキと高鳴り、隣にいる新垣の顔をチラリとみる高野だった。何一つ表情を変えていない新垣。猫山のその言葉が、新垣には聞こえていなかったことに、胸をなでおろす高野。そして、何も言わずに、ただコクリと頷くのであった。
そんな高野の反応にさらに機嫌をよくした猫山は、
「まあ!かわいい!」
とうれしそうに言うと、つま先立ちになり、まるで高野を抱きかかえるように高野の胸のあたりに両手を回すと、高野の右耳たぶを軽く噛んでくるのだった!
「や、やめて・・・くださ・・・」
耳たぶをカミカミされたあまりの気持ちの悪さに、高野は、思わず小声で叫ぶようにそう言うと、すくんでしまうのだった。
「まあっ!ウブね〜!でも、あんたのそういうところ、ますます気に入ったわ!フフフ・・・がんばってね、ケンちゃん!」
猫山はそう言うと、さらに遠慮なくその白くヌルッとした細長い指を健一の白ブリーフに包まれた尻の谷間に滑らせてくるのだった・・・。
「あっ・・・あぁ・・・」
こんな気持ちの悪い女のような話し方をする男に出会ったのも生まれて初めてだったし、こんなに舐め回すようにケツを撫で回されたのも生まれた初めてだった。高野健一は、全身、鳥肌がたち、とうとう我慢できず、猫山のヌルっとした白い手から逃げるように、思わず尻を引くようにして身体を仰け反らせてしまうのだった。
そこへ楽屋からスタジオ入りしてくるミリタリー廿楽。肩には飴色に輝く「根性棒」が担がれていた。そして、高野と新垣の二人をギロリと睨みつける。そして、
「おまえら!俺の根性棒は、テレビでみるほど甘くねぇぞ!覚悟はできてんのか!」
と、怒鳴りつけるような厳しい口調で言うのだった。廿楽の海兵団仕込みのドスが効いた声色は、根性棒ケツ叩きの前奏曲として、男子大学生をビビらせるのにピッタリだった。
「は、はい・・・」
「は、はい・・・」
高野も新垣も、元プロレスラーが肩に担ぐ「根性棒」を見て、急に不安になる。
自分の前にゼッケンとブリーフ一丁の姿で立つ高野と新垣の二人をさらに睨みつけると、廿楽は、
「ったく、大学生のクセに遊びほうけやがって・・・お前らのケツに20万円の重さをたっぷりと教えてやる!」
と言う。20万円は「おケツ自慢、全国男子大学生選手権大会!」の優勝賞金だった。
そんな廿楽に、新垣は、口をとがらせて、
「か、金のためじゃないッスよ!じ、自分たちは、母校の名誉のために戦ってるんです!」
とくってかかる。
廿楽は、新垣の反抗的な態度についついむか腹を立て、
「何!生意気なこと言いやがって・・・母校の名誉のために戦ってるだと!こんなくだらん番組に出て、母校の名誉は逆に汚されるんじゃねぇか?」
と声を荒げる。
「そ、そんなことないッスよ!」
と、さらに口をとがらせて廿楽に挑もうとする新垣。まだまだ尻の青いガキであった。
一方、「母校の名誉が汚される」と聞いて、思わずドキッとして顔を紅潮させる高野だった。そして、ラグビー部では一緒に大部屋落ちし、今は金に困っている久住の顔が目に浮かび、ギュッと唇をかみしめるのだった・・・。
お互いに睨みあっている廿楽と新垣の間に割ってはいるように、
「廿楽ちゃ〜ん!お説教はそこまでよ!さあ、決勝戦、早く始めましょ!タイム・キーパーから巻きが入ってんのよ!」
と、猫山が促すのだった。
猫山の言葉を聞いて、番組ADが、
「巻き入ってるから、学生さん2人は、パンツからこのサポーターにダッシュで着替えて!決勝戦は、このサポーターだからな!前の部分にカップついてるだろ、それにキンタマしっかり収納すること!ときどきいるんだよ、根性棒がキンタマにあたって失神するヤツ。そうなると、こっちの責任問題になって、シャレにならねぇからさー。金カップにしっかりキンタマ収納な!頼んだよ!」
と言ってニヤッと顔に笑みを浮かべると、高野と新垣に、金的カップ付きケツ割れサポーターを渡すのだった。
そんな中、さすがの廿楽も、プロデューサーの猫山には逆らうことはできず、新垣のことをギロリともうひと睨みすると、
「よっしゃ!!!」
と、周囲にいるものが思わず飛び上がるような大声を張り上げ、担いでいた「根性棒」を肩から下ろし、それを軽々と右手で握り締めると、自らの左手のひらにそれを打ちつけて、
パチコォ〜〜〜〜ン!
パチコォ〜〜〜〜ン!
と豪快に打ち鳴らすのだった。
ブリーフ一丁から決勝戦のユニフォームであるケツ割れサポーター一丁へと着替えた新垣と高野は、思わず顔を上げ、
「マ、マジかぁ・・・」
「あれでケツ殴られんのかぁ・・・」
と思う。ケツから血の気がスゥ〜と引くようで、サポーター一丁、ケツのスースー感がいやがうえにも感じられ、新垣も高野も、準決勝で割り箸の痕が赤くついた己のケツを両手で撫でるのであった。
ビューティーガールズたちの新曲披露が終わり、スタジオの照明が減光され、スタジオは一瞬静まり返る。
しかし、すぐに
パンパカパーン!!
とファンファーレの音が響き渡る。それとともに、スタジオに設えられた舞台の上に立つ二人の男子大学生にスポットライトが当たる。
おぉーーー!!
ワハハハハ!!
スタジオ観客席から歓声と爆笑、そして、大きな拍手が沸き起こる。
舞台向って左側は、明和大学・バンザイ同盟所属の新垣大典選手、そして、少し離れて、舞台向って右側は、東和大学・体育会・ラグビー部所属の高野健一選手。二人とも、両腕を胸のところに組み、両脚を少し広げて、誇らしげに立っている。背中には、それぞれ大学名と氏名が書かれたゼッケン、そして、その下は、ケツ割れサポーター一丁で、ケツ割れサポーターのバックにあるゴム・ストラップにフレーミングされた逞しい野郎の堅生尻を、テレビカメラ、すなわち、全国のお茶の間の方に向けている。
もちろん、ケツ割れサポーターの金吊り袋の内部には、しっかりとプラスティック製の金的カップを仕込み、その中に、己の股間にぶら下がる大切なイチモツをしっかりとしまい込んでいる。すなわち、竿は完全に上向き、玉金はやや上向きにして、チト窮屈だが、己の男性自身をしっかりとカップの中に収納済み。番組ADの事前の注意通り、根性棒で裏タマを万が一痛打されてしまうのに備えて、特にキンタマがしっかり金的カップの内側に入るように、金吊り袋の内側の金的カップをしっかりと男の大切な部分にあてがっているのである。
お茶の間のテレビ画面に、高野と新垣の逞しい生ケツが一瞬映し出されたかと思えば、今度は、スタジオが明るくなり、スタジオの天井から吊るされたカメラが、二人を真上から映し出す。スタジオの観客からは大爆笑が沸き起こる。なんと、二人が立っている舞台には、少し離れた2か所に同じように、野球場のホームベースとバッターボックスを模した五角形と長方形のラインそれぞれ白く描かれていて、高野と新垣は、それぞれのホームベースのちょうど上あたりにケツが来るように立っていたのである。
そして、テレビ画面には、
決勝戦!!サポーター一丁・おケツ耐久度審査!根性棒ケツ叩きガマン比べ!!
の赤い文字がデカデカと映し出される。再び、スタジオの観客たちからは大爆笑がわき起こる。
アナウンサーの御手洗が、
「さあ、これから、1回戦・赤フン一丁・美ケツ審査、準決勝・パンツ一丁・ケツ圧審査を勝ち残った、二人のお尻自慢が、真の豪ケツ野郎の栄冠を目指して、決勝戦の競技にのぞみま〜す!!」
と、仰々しくアナウンスする。スタジオからは再び笑いが起きる。
「これから私が、決勝戦のルールをご説明いたします。」
そう言いながら、御手洗は、舞台に上がると、後ろ向きに立っている新垣と高野の間に立って、
「さあ、全国のテレビの前のみなさん!!私の両脇に立ちます、二人のお尻自慢のたくましいお尻に注目して下さい!!」
と言う。テレビの画面には、新垣と高野のケツが交互に映し出される。もちろん、スタジオからは大爆笑だ。
「決勝戦では、この二人のお尻がいかに耐久性に富んでいるのかを審査するのであります!!決勝戦を手伝ってくれるのは、もちろん、もうこの番組の名物男となりました、元プロレスラーのミリタリー廿楽であります!!さあ、ミリタリー廿楽にご登場願いましょう!!どうぞ!!」
アナウンサーで司会の御手洗がそういうのが早いか、スタジオには、
ジャジャジャ、ジャーーーン!!
と、悪役登場のファンファーレが鳴り響き、
「うぉーー!!」
の叫び声よろしく、赤のプロレスパンツ一丁のミリタリー廿楽が右手に根性棒を持って舞台にあがってくる姿がアップで映し出される。
「おぉーーー!!」
と、スタジオの観客たちからは、わざとらしい驚きの声があがる。
アナウンサー御手洗は、ミリタリー廿楽が右手に持つ根性棒を指し示しながら、
「さあ、みなさん、みてください!!ミリタリー廿楽の右手に握られた、この太い棍棒を!!この棍棒こそが、番組の名物、根性棒なのであります!!これから、こちらにいるミリタリー廿楽が、新垣君と高野君のお尻めがけて、この根性棒を力任せにブブン!と振り下ろすわけです!そうするとですね、バチ〜ン!と容赦なく、この根性棒が二人のお尻に炸裂するというわけです!いままで、何人の大学生の尻を打ちのめしてきたことでしょう!!この根性棒には、男たちの尻の脂がこびりつき、黒光りしております!!」
と説明する。アナウンサー御手洗は、さらに続けて、
「そして、どちらか一方がギブアップするか、または、お尻を叩かれた時、前にあるラインを一歩でも踏み出せば、すぐさまアウト!それで勝負あり、決勝戦の勝者が決まるわけです!!さあ、新垣君、高野君、ジャンケンをして、先攻後攻を決めてください。」
ジャン、ケン、ポーン!!
スタジオの観客たちの唱和とともに、舞台に立つ、新垣と高野がジャンケンをする。
「あーーー、ちくしょーーー負けたーーー」
新垣がジャンケンで出したグーの右手をそのまま上げるようにして、声を上げる。そして、スタジオの天井を仰ぎ見るのだった。一方、高野は、パーを出した右手に拳を握り、控え目にガッツポーズ。
ジャンケンに勝った高野は「後攻」を選び、新垣が「先攻」となり、いよいよ我慢比べの勝負が始まるのだった・・・。
十二、日曜午後の応援団風景 その4 (東和大学・体育会学生会館前にて)
「東和必勝!闘魂棒、頂戴します!!」
と、一番端でケツを出していた一年団員が叫び、体がくの字になるほど、ケツをさらにグッと後ろへ突き出した。
「やぁ〜〜〜〜〜〜!」
と気合を入れ、構えていた闘魂棒で一年団員のテカテカに光ったジャージのケツを打ち据える田辺親衛隊長。
ベチン!
と、濡れ雑巾をコンクリートのの上に叩きつけような鈍い音があたりに響く。
その音を聞いて、
「今日の闘魂棒は半端じゃない・・・・」
と思い、一列に並んでケツを出している同期の一年団員は、思わず目を閉じ、両拳をギュッと握り締める。
ガァッツゥ〜ンとたっぷり闘魂を注入されたその一年団員は、ケツから脳天へと突き上げてくる激痛に口をギュッと結んで必死で耐える。
「と、闘魂、あ、ありがたく頂戴しましたぁ〜〜〜!」
の挨拶はもちろん忘れない。
ケツがジリジリと熱くて重くなってくる。なにかが張り付いたようだ。しかし、ケツを撫でることはできない。同期全員の闘魂注入が終わるまで、両手を挙げたそのままの格好で踏みとどまる。
闘魂注入の直後、反射的にケツをさすり、何度やり直しをくらったことか・・・その反射行動を、どうにか「意識的」に抑えられるようになることも、一人前の応援団員になるための男の修行の一つなのだ。
野球部員への試合前の闘魂注入は、いわば闘魂棒出張サービスだ。出張サービスの「お客様」がケツをさすっても、団員のおしみない拍手がふりそそがれる。しかし、身内の応援団員(懲罰入団の他部員も含む)がケツをさすれば、ふりそそがれるのは、先輩団員の怒号と親衛隊長のやり直しの命令のみである。
「ケツをさするな!せっかく注入した闘魂がケツから剥がれ落ちる!!もう一丁!やりなおぉ〜し!」
とくるのだった。
闘魂棒によって、ジャージのケツにベッチィ〜ンと貼り付けられた「闘魂」が、ジャージの生地を通してケツへ、そして、ケツから体内へ吸収されるまで待てと言うことなのか。注入される方にしてみれば、あの脳天ガッツゥ〜〜ンの衝撃だけでもう十分「ごっつあんでした!」なのではあったが。
そして、
「東和必勝!闘魂棒、頂戴します!!」
「やぁ〜〜〜〜〜〜!」
ベッチィ〜〜〜〜ン!!!
「と、闘魂、あ、ありがたく頂戴しましたぁ〜〜〜!」
「よしっ!次、行くゼェ〜〜!!」
「東和必勝!闘魂棒、頂戴します!!」
「やぁ〜〜〜〜〜〜!」
ベッチィ〜〜〜〜ン!!!
「と、闘魂、あ、ありがたく頂戴しましたぁ〜〜〜!」
と、田辺親衛隊長によって、一年団員の突き出されたケツに順々に闘魂が注入されていくのだった。
つづく