第2章 シゴキの予感−入寮式・新歓コンパ風景

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一、入寮式風景

  午前の入学式のあと、同じ式場で大学主催の入寮式があり、午後は中庭で寮生主催の入寮式が行われた。

 制服のままの南・北両寮の新入寮生48人が、中庭に整列した。南北両寮合同の入寮式であった。各寮の寮長から各寮の「幹部」と言われる年生の先輩たちが紹介されていく。教育委員長、懲罰委員長、宴会委員長、大学祭実行委員長、事務掛長、会計掛長たちだ。

 大志は、「高校時代とは違って、なんか、本格的だなぁ〜。でも、懲罰委員長って、なんか厳しそうだなぁ。いろいろ規則破ったりすると、やっぱ、罰、食らうのかなぁ?」と先輩たちの挨拶も上の空で思っていた。他の年生たちの中からも、ざわざわと私語がもれ始めていた。 

 ドシン!という音で、突然我に返った大志が前方をみると、さきほど紹介された北寮教育委員長の鬼頭先輩が睨みつけるような迫力のある表情で、大志たちの前方にある舞台の上に立っていた。さっきの音は、その先輩が、右手に持っていた竹刀の先端で、木でできた舞台の床を突いた音だったのだ。 

「コラぁっ!静かにせんか!これから、お前らひとりひとりに、いま俺がたっている舞台の上で、自己紹介をしてもらう!もし自己紹介が俺たちに聞こえなかったら、何度でもやり直しだ!男らしくしっかり腹から声を出して自己紹介しろ!」

  今までとは一転して厳しくなった先輩の態度に、1年生たちは、水を打ったように静まり返った。返事のない1年生たちに少しいらいらした様子で、鬼頭先輩は、

「オラァ、何をぐずぐずしてるんだ!日が暮れちうぞ!そこのお前からだ。トットと前に出て来て自己紹介しろ!」

と、最前列右方にいた年生を持っていた竹刀で指して命令する鬼頭先輩。 

 前列にいる新入生から順番に前に出て舞台の上に立ち、大声で自己紹介をさせられることになった。大志も、順番になり、舞台の上に立ち、

 「私立・開明高校出身〜ん、理学部、船舶物理学科、年藤沢大志、本日ィ〜ツ、北寮2階203号室に入寮させていただきま〜す。」 

と、生まれて初めてだすような大声で自己紹介した。

 手を後ろに組み、すこし上半身を後ろにそらして、あらんばかりの大声をだそうとする。慣れてないので、最初は思わず、屁をコイてしまうくらいだった。声が小さいと、「聞こえねーぞ!やりなおせ!」と、後方の寮の窓から顔を出し見物している先輩から野次が飛び、何回でもやり直しさせられるのだ。それでも、大志はどうにか、回目には許してもらえた。

  自己紹介が終わり、舞台から降りようとする大志の頭上に、突然、バケツ三杯の海水が、ザバァ!ザバァ!ザバァ!と降りかかってきた。すでに同部屋が決まっている人の先輩が後方の寮の窓のところで待ち構えていて、バケツにはいった海水を、下の舞台に立っている大志に、浴びせかけたのだ。

 海水でびしょ濡れになった大志は、手で顔をふき、塩水でしみる目をやっとの思いで開き、「ありがとうございました。失礼します!」と挨拶をし、上級生の拍手と笑いのなか、舞台を降り、自分の位置へ戻っていく。そして、次の年生が自己紹介のため、前方の舞台へ上がるのだった。

 すべての新入寮生の自己紹介が終わると、全身びしょ濡れの新入生たちは各自の寮の部屋へと戻り、各自の私服に着替え、夕方からの新入寮生歓迎コンパへと出席することになった。水浸しになった制服は、各寮の先輩たちが責任を持って預かり、大学生協のクリーニングへと出された。この後、しばらく、新入生はこの制服を着ることはなかったのであるが・・・。

二、北寮・入寮歓迎コンパ

  夕方から北寮の寮食堂で行われる新歓コンパでは、1年生は酒浸りとなる。彼らはまだ未成年ではあったが、先輩から酒を飲まされることは、それは当時の大学ではごく普通のことだった。

「今日は、お前らがお客さんだからな。遠慮せずにどんどん飲めや」

といって、1年生たちの持つグラスに並々とビールが注がれていく。飲み干せば、いくら遠慮しても、また、先輩が「もう一杯!」「もう一丁」と注いでいく。その繰り返しだ。

  酒の弱い大志は、すでに酒がまわりすぐにほろ酔い気分。そして、必死でこらえていたが、襲ってきた睡魔に、

「先輩、俺もう、飲めないッスよ・・・ムニャムニャ・・・」

と、とうとう寝崩れてしまうのだった。大志は「つぶされた」のである。

 近くにいた2年生から、大志が一番目に酔いつぶれてしまった報告を受けた鬼頭先輩は、

「そうか。今年はやけに早ぇーな。報告ご苦労。つぶれたヤツは、医務室に連れて行って介抱してやってくれ。」

とやや拍子抜けした顔つきで言うと、続けて、

「じゃあ、そろそろ恒例の行事を始めるか!」

といって、立ち上がる。

「これから、1年生諸君に、北寮恒例の自己紹介をやってもらう。まずは、2年生にお手本を披露してもらう。これから、寮内のコンパで1年生が自己紹介するときは、いつもこの格好でやってもらうから、そのつもりでよく見て、早く慣れるように。」

と言うのだった。

 また自己紹介と聞いて、不安そうな顔になる1年生たち。酔いが回ってすでに真っ赤な顔になっている1年生も、これから何が始まるのかと、寮食堂の前方に目を向けるのだった。

「203号室、2年、宮元進、前に出てきて、自己紹介の手本を見せてやってくれ!」

と、鬼頭先輩が指示を出す。

「はい!」

と、でかい声の返事のあと、宴席に座っていた2年生宮元が立ち上がり、食堂前方、掲示板の前に置いてあった机の上に登る。大志と同部屋の2年生であった。

 そして、両足を少し広げて立ち、両手を後ろに組むと、

「これから、自己紹介をさせていただきます!」

と大声でいうと、宮元進は、自分の洋服をすべて脱ぎ、着ていた白いTシャツとブルーのトランクスまでも脱ぎ捨て、スッポンポンになったのである。

 机の上に立つ、真っ裸の2年生の先輩をみて、酔いも一気に醒め、唖然とする1年生たち。

 宮元進の裸体は、3・4年生には及ばないものの、海の男の卵たちを鍛えるS大で、年間、 鍛えただけのことはあり、身体もがっしりとして、下着のあとの付いた股間前部とケツの部分以外は、こんがりと小麦色に日焼けしていた。

  しかし、1年生たちを驚かせたのは、宮元進の体躯ではなかった。1年生たちの目が釘付けになったのは、宮本先輩の股間であった。そこには、大学2年生の男子ならば、普通はあるはずの股間の毛が、全くなかったのだ。きれいに剃られていたである。そして、宮元先輩の大事なイチモツには、ブルーのリボンが、蝶ネクタイ状に結び付けられていたのだ! それは、正面から見ると、まるで、象さんが鼻にリボンを付けたようだった。そして、その「蝶」の両羽根の部分には、向かって、左側に「宮」、右側に「元」とその2年生の苗字が、黒マジックで書かれていたのだ!

 その股間の蝶ネクタイに驚愕し、声も出ない1年生たち。そして、大爆笑の上級生たち。そんな中、宮元は、真っ赤な顔をして、

「××高校出身〜ん、理学部、○○学科、 北寮2階203号室、年宮元進、よろしくお願いしま〜す! 

と自己紹介をするのだった。

  しかし、3・4年生たちは、声が小さいだの、あーだの、こーだの文句をつけて、なかなか、合格の拍手をしない。鬼頭先輩も、

「お前、そんな根性の入っていない自己紹介じゃ、1年生の手本に全然なっとらん!やり直せ!」

と、無情にも何度も命令を出す。

  そのたびに、宮元進の自己紹介は初めからやり直し。それが、延々と繰り返され、10回目にやっと上級生たちから自己紹介・合格の拍手をもらい、

「ありがとうございました。失礼します!」

といって、机の上から降り、真っ赤な顔のまま、床の上に脱ぎ捨ててあった服を恥ずかしそうに集めて、それをもって宴席の後方に戻っていくのだった。

 鬼頭先輩は、

「さあ、今度は、1年生諸君の番だ。まずは、廊下で待機している2年生から、リボンをひとつずつもらって、お前らのカワイイチンチンに結び付けろ!それから、ズボンを穿き直したら、ひとりずつ食堂にはいり、自己紹介を始めるように!それから、チン毛は剃らなくていいからな!あれは、去年、一番最初に、酔って寝てしまった罰だ!」

と命令した。

  周りの先輩たちが大笑いする中、困ったような顔つきの1年生たちは、廊下にでて、ひとりずつ、その青いリボンを受け取った。すでに、蝶ネクタイの形に結ばれており、あとは、両端を大事なモノに結びつければいいようになっていた。 そして、2年生から、そのネクタイの両羽根の部分に黒マジックで苗字を書くようにいわれた。

「こんなのアソコに結んで、裸になんのかよ!タダで済むとは、おもわなかったんだよな・・・今晩あたりは・・・。」

「酔って寝ちゃったやつ、やらなくても、いいんだろ!いいよなぁ〜。俺も、早く、寝たフリすればよかったぜ・・・。」

「バァ〜カ!来年、チン毛剃って、1年生の前で、ひとりで自己紹介やらされるんだろ!鬼頭先輩、そういってたじゃん!超はずかしいぜ!」

などと、廊下でペチャクチャしゃべる1年生たち。

 鬼頭先輩が、廊下へ出てきて、

「くだらんこと話しとらんで、早くしろ!」

と、新入りたちを一喝する。

  こうして、準備の整った1年生たちは、机の上に立ち、ストリップショーをした上、全裸で、自己紹介を始めていった。平均5回、最低でも3回はやり直しだった。素っ裸で自己紹介だなんて、ほとんどの新入寮生にとって、生まれてはじめての経験であり、酔いも完全に醒めていた。しかし、今度は羞恥心からか、ほとんどの1年生が顔を真っ赤にし、手で思わず股間を覆い隠そうとしていたのだった。もちろん、男子寮での生活が、 2,3ヶ月も過ぎれば、そんな初心な羞恥心も麻痺し、人前でフリチンになることなど恥ずかしく思わなくなる、いやそれどころか、むしろ脱ぎたくて仕方がなくなるらしいのだが・・・。

  そのころ、医務室のベットの上では、スヤスヤと気持ちよさそうな寝息をたてて、大志が寝ていた。同級生たちが受けている、まさに全裸「羞恥攻め」の特訓のことなど夢にも知らず、そして、来年の新歓コンパでは、自分自身が宮元先輩のようにチン毛を剃って後輩たちに自己紹介の手本を示すことになる運命であることなど、その時はまだ知る由もない大志だったのだ。

  大志を除く1年生たちの全裸自己紹介が終わると、再び、先輩たちは「さあ飲め飲め!」とかわいい後輩たちに酒をすすめる。こうして酔い潰された新入生たちはまとめて洗面所に放置され、そこは、一面ゲロまみれの異臭ただよう修羅場になっていた。もちろん、例年、その後始末はなんだかんだで年生たちの仕事であった。

 一方、上級生たちは、「講義はあさってからだからな、新入りはそのまま放っておけ。」と、1年生たちを無理に部屋まで連れて行こうとはしないのであった。

三、 北寮入寮2日目

  翌朝、午前五時、洗面所で放置され一夜を明かした年生たちが、けたたましい音とともに叩き起こされる。1年生全員が二日酔いで頭がガンガンだ。 

  4年生の先輩たちが、バケツの底を叩きながら、昨夜、洗面所に放置されていた1年生23名を起こしにかかったのである。

 「よし、全員風呂場の更衣室へ行き、お前らのゲロがこびりついた服を脱いで、シャワーを浴びてこい。ほら、ダッシュだ。時間がないぞ、さっさとしろ!」 

 1年生たちは、自分が実家の布団の中ではなく、S大の北寮の洗面所の床の上で寝ていたことを悟るのだった。まだ少しふらつく頭で、風呂場へと急ぐ1年生たち。しかし、裸になり浴場にはいると、さすがはまだ高校出立ての若い男子たちだ。すぐに修学旅行気分で、蜂の巣をつついたような騒がしさとなる。全裸の自己紹介と、先輩たちからの酒責めを経験して、少しだけ、大人になったような気分でもあった。

 すでに、医務室で起こされた大志も、その1年生たちに合流していた。ただ、まだお互いの顔をよく知らない1年生同士だ。大志が1番に酔いつぶされて、

 なかなか風呂から出てこない新寮生たちに、年生の先輩たちが、浴場のドアを開き、「こら、女じゃあるまいし、何時間かかっているんだ!」と一喝する。そして、4年生の先輩たちに急かされて、浴場から更衣室へ出てきた1年生たちは、そこにさっき自分たちが脱いだ私服がないことに気がつくのだった。

 更衣室で待ち構えていた、 1年生教育委員長の4年生の鬼頭先輩が、

「今日からしばらくのあいだ、お前らは、寮内ではこの白のブリーフ、白のTシャツ、そして、実習服で、すごしてもらう。お前たちのゲロまみれの私服は、寮が責任をもってクリーニングにだしておくから安心しろ!着替えたならば、速やか寮食堂へ集合だ!」と厳しい口調で、素っ裸の 1年生たちに命令する。

  いよいよ、地獄の「新入生教育期間」の始まりであった。

第2章 終わり

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