1年生たちは、鬼頭先輩の厳しい口調に戸惑いながらも、籠のなかにあったその「ユニフォーム」を手にとった。実習服はすでに生協で受け取った各自のものだったが、その白のブリーフと白のTシャツは初めてみるものだった。
どちらも生協で売っているものらしいが、どちらも校章である錨のマークがついており、Tシャツには、左胸にS大と錨のマークが青でプリントされていた。
1年生を驚かしたのは、ブリーフで、股間前部のYフロント上部に錨のマークと前部左側にS大のマークがプリントされており、さらにその下には1年生の各自の苗字が、青の刺繍で縫いこまれていたことだった。まさに「マイ・ブリーフ」であるが、この刺繍は、生協の衣料品売り場の中にある、裁縫部で、注文すればやってもらえた。
1年生たちは、一様に、
「ひぇ〜、格好悪りィ〜。こんなのマジで穿くの?」
「パンツに名前かくなんて、いまどき、小学生でもやらないんじゃねぇ〜の!」
「バ〜カ!名入り刺繍付きパンツなんて、誰もやらねーよ・・・。」
と、ブーブー文句を言っていた。鬼頭先輩の
「ほら、そこ!何文句いってるんだ!さっさと着替えて寮食に集合しろ!」
という、一喝が再び入り、1年生たちは仕方なくこれらの下着を穿いて、作業服に着替え、風呂場をあとに寮食堂へ向かう。
大志も、いつも愛用している猫のイラスト入りのトランクスを脱ぎ捨て、中学2年のとき以来、久しぶりでブリーフを穿き、寮食へ向かうのだった。
寮食堂に1年生全員が揃うと、新入生教育委員長の鬼頭先輩が、オリエンテーションとして、以下のことを1年生たちに伝えた。
「これから、ゴールデンウイークが始まるまでの、約2週間は新入生教育期間である。君たち1年生諸君に、寮での生活や規則に1日でも早く慣れ親しんでもらうために、毎年、実施している。俺がこれから言う注意事項を守って、この2週間をすごすこと。注意事項は1度しか言わないからな!」
「まず、新入生教育期間中の寮内・外での服装だが、今、お前らが着ている、実習服に、下着は白のTシャツと白のブリーフだ。 」
「船乗りは、清潔を旨としないといけないから、実習服とTシャツはマメに洗濯しろ!洗濯は、1階の洗濯場で、洗濯板を用いて手洗いで行うこと。洗濯機は使用禁止だから、早く慣れるように。」
「ただ一方、シケなどで船の中に閉じ込められ何日間も同じ下着で過ごさなければならないこともある。そのことにもまた、早く慣れてもらうため、ブリーフはいま穿いている1枚で、これから2週間を過ごすこと。洗濯してもいかん!」
「S大の校章入りのパンツを全員で穿いてもらうのは、愛校精神と連帯感を早くもってほしいからだ。我が北寮のシンボルカラーは青で、隣の南寮は赤だ。」
ブリーフ洗濯禁止には、1年生のなかからブーイングが起こったが、鬼頭先輩の「うるさい!」という怒鳴り声で一蹴された。
鬼頭先輩は続けて、
「外出についてだが、新入生教育期間中は、病気などの特別な事情がないかぎり、外出は一切禁止だ。大学構内に缶詰状態になってもらう。遠洋航海に出たつもりでこれからの2週間をすごすように。実際の遠洋航海に比べればこんなものまだ楽なものだから、ガマンするように。」
さらに、続けて、
「1年生の起床は、朝5時半だ。起きたらすぐに部屋の前にブリーフ一丁で立ち、部屋長の点呼を受けること。」
「 顔を洗い、用をたしたら、その後、すぐに5時45分から廊下の床磨きをやってもらう。それが終わったら、すぐドックへ向かうように、6時半から大学祭で南寮との新人対抗戦にそなえ短艇漕ぎの訓練だ。対抗戦には、2チームに分かれて、1年生全員に参加してもらう。 」
「 その訓練が終わったら、朝飯だ。さっさと食って、講義に遅刻しないようにしろよ。」
「 講義が終わったら、すぐに、寮に戻ってくるように。班に分かれて2年生から寮内での仕事の引継ぎをしてもらう。2年生もしっかり指導するように。もし1年生が仕事をしっかりやっていなければ、2年生の責任になるからな。」
1年生たちの後ろに立っていた2年生たちから、「はい!」の声が、その大きい声に、1年生たちは驚き、後ろを振り返る。
「もちろん、いままでにいったことだけでなく、寮則を守ることは当然のことだ。お前らが、なにか不始末をしでかせば、それは、4年生の部屋長の監督不行き届きとなり、お前らの先輩に迷惑がかかることをおぼえておけ。 」
「 それから、しっかり大きな声であいさつができるよう、教育期間中のみ、寮内だけでなく、大学構内で先輩にあったら、かならず、『失礼します!』と元気にあいさつするように。」
「 最後に、元気なお前らには、ちと、ツライだろうが、遠洋航海を乗り切るため、いつでも性欲をコントロールできるよう、教育期間中、オナニーは一切禁止だからな!各部屋の部屋長は、1年生のオナニーコントロールをしっかり指導するよう協力してくれ。」
2年生と同じく、後ろに立っていた4年生から、低くて太い声で「はい!」の返事があった。
つい半月前、高校を卒業したばかりの1年生にとって、21、2歳の4年生はまさにオッサンといった感じで、非常に怖い感じだった。4年生の態度が、オリエンテーション後、急にきびしくなったため、しばらくの間は、1年生が4年生の前に立つと、緊張して直立不動の状態であった。
鬼頭先輩は終わりに、
「教育期間中、毎日、午後9時から、ここ食堂で、反省会を行う。いままで俺が注意したことを守れなかったヤツには、懲罰がまっているからな!罰を食らうのがいやなら、 船乗りになるための修行だと思い、まじめに、これからの2週間を過ごすように。」
常に先輩たちの監視の目が光っていて、1年生たちにとって、一瞬たりとも気が抜けないつらい2週間、それがが新入生教育期間なのであった。しかも、オナニーも自由にできないなんて・・・。一年生たちが、注意がすべって終わったかと思ったとき、鬼頭先輩が、
「あ、それから、203号室の藤沢、お前、昨日のコンパでの自己紹介まだだったよな!」
といきなり言った。名前を呼ばれて、戸惑う大志だったが、
「はい」と返事をすると、
「これが、きのう渡すはずだった青いリボンだ。昨日、自己紹介をできなかった罰として、来年の新歓コンパのとき、そのリボンをつけ、1年生の前で自己紹介してもらうからな!おぼえておけ!リボンのつけ方と自己紹介のやり方は、お前の部屋の宮元から、教えてもらうように!」
1年生も含めて、そこにいた大志以外の全員が大爆笑するなか、大志は、何がおかしかもわからず、真っ赤な顔をして、その青いリボンを受け取ったのであった。
「以上だ、解散。1年生は、風呂についての注意があるので、今夜7時に、再びここに集まるように。」
第3章 終わり