教育期間中の重要なことのひとつに、1年生がこなすべき、寮内での雑用・雑務の2年生からの引継ぎがあった。
寮内の雑用・雑務は、1年生が5班(1班につき4〜5名)に別れ、1週ごとに交代で行う。主要なものは、4年生の下着の洗濯、夕食時間あとの寮食で の上級生への世話、便所掃除、そして、風呂掃除だった。雑用のない週は非番となる。
これらは、実家で甘やかされて育った多くの1年生たちにとって、生まれてはじめてのことばかりだった。そして、これらの仕事になにか不始末があれば、新入生教育期間中は、反省会へまわされ、懲罰の対象になった。
航海中は、洗濯板を使って手洗濯をしなければならない。それを習うため、1年生は、寮内の4年生の下着と靴下を洗濯させられた。そして、寮の屋上に洗濯紐を渡してそこに吊るして干した。そして、乾くと、たたんで4年生の名前の書いた袋に入れ、手分けして、または、4年生のベットの上に置かなければならなかった。洗濯は、何曜日にやってもかまわないので、たまらないよう小マメにやる。4年生に間違えて洗濯物を渡してしまうと、懲罰の対象になるので、先輩の下着をしっかりと憶えておかないといけなかった。
先輩たちは、おもに、トランクスをはいている者が多かったが、やはり、性処理はおもに週末のみで、平日は禁欲生活であることが多いのか、下着にゴワゴワのシミが付いているなんてこともよくあり、1年生たちには、嫌な仕事のひとつであった。
夕食後から消灯までの寮食堂は、寮生たちの娯楽室のようになっていた。酒・タバコもここでは許可されており、テレビ・ソファ等も完備されていた。
毎晩1年生4〜5人が常駐し、上級生の使い走りのような雑用にあたることになっていた。従って、この役目がまわってきたときは、週末の外泊は不可能となる。精神的にも肉体的にも一番つらい当番であった。
また、はっきりとは禁止されていないのだが、暗黙の了解で、当番ではない1年生がこの「娯楽室」にはいってくつろぐことはしなかった。同級生が先輩から無理難題を押し付けられシゴかれている姿を、わざわざ見物しにいくようなことはしないのであった。
一発芸を披露させられたり、使い走りもあり、陰険な先輩だと、例えば、「コーヒー牛乳買って来い」と命令し、1年生が買ってきたものをみて、「俺は、メーカーAじゃなくて、メーカーBのコーヒー牛乳しか飲まないんだ。もう一度行って買い直して来い!」と、再度のおつかいを命じる先輩もいた。もちろん、先輩を長時間待たせたりしたら、懲罰の対象であった。
また、金曜日には、コンドームのお使いがやたらとふえた。彼女とのデートを前に、後輩に買いに行かせる先輩がかなりいたのだ。大学に最寄のコンビニは、コンビニにしては、コンドームの売れ行きが異常に高く、コンビニ本部の社員も驚くほどとか。当然、売れ切れになることが多く、もし売れ切れで買ってこれないと、これまた、懲罰の対象になる、週末になると、1年生の間では、コンドームの争奪戦が繰り広げられていた。
また、S大独自のものとしては、寮食の隅に、ミニバーのような設備があり、そこで、先輩から命じられた酒やカクテルをつくって出さなければならなかった。したがって、洋酒の名前やカクテルの作り方を、プロのバーテンダー顔負けにいろいろと憶えさせられるのであった。もちろん、作り方を忘れたり、間違えたり、先輩を長時間待たせたりすれば、懲罰の対象となった。
S大学は船長クラスになる海の男を育てるための大学である。遠洋航海の寄港地で、社交上、バーやパブに立ち寄っても恥をかくことのないよう、学生のうちから、しっかり教育されるのであった。
これらは、土曜日の午前中に行う。外出の許可を早く受けられるか否かは、掃除を検査する4年生の当直による。やさしい4年生だと、「しっかり掃除しただろうなぁ?」「はい!」でお役ご免となるのだが、意地が悪かったり、神経質な4年生が当直だと、実際に便所や風呂場場まで行き、いろいろとケチをつけられてやり直しさせられ、なかなか外出許可はでないのである。
第5章終わり