他の大学と違い、S大の般教(パンキョー)の「体実」(体育実技)は、息抜きの時間ではなかった。寮でのシゴキが精神面の強さを鍛えるとするならば、体育実技はまさに、屈強な船乗りに鍛え上げられるための訓練の時間なのであった。
S大の体育実技の3本柱は、 基礎トレーニング(陸上の中長距離種目も含む)、水泳訓練(競泳は行わない、遠泳のみ)、そして、ラグビーだ。
ラグビーが球技種目として選ばれている理由は、S大の場合、新入生のほとんどが、高校でラグビーは未経験なので、全員がゼロから一つの種目をならい、連帯感を強めることができると考えられていただめである。そして、ラグビーが、チームワークやリーダーシップを学び取るのに適したスポーツであるからでもあった。
週1回、午後の3コマ、4コマ目ぶっ通しで、体育実技の講義が行われる。講師は、専任講師の猪熊三郎36歳であった。
猪熊自身は、S大の出身ではないが、大学時代はラグビーに熱中し、4年間ラグビー部の合宿所兼寮ですごした経験を持っていた。従って、猪熊自身、4年間寮生活を送らなければならないS大の学生たちには、近親感を覚えていた。
顔は髭面の強面で、学生時代ラグビーで鍛えた身体は、逞しくガッシリとしていた。猪熊は、体育実技の時間に1・2年生を徹底的にしごくため1・2年生には恐れられているが、3・4年生からは「熊さん」の愛称で兄貴のように慕われていた。その荒々しい猛者といった風貌には似合わず、運動生理学の博士号をもつ、立派な学者でもあった。
猪熊は最近のひ弱な新入生を徹底的にしごき上げるという教育理念を持っており、本来は「体育講義」(座学)にあてるべき1コマも、ほとんどの場合、「体育実技」にあてられていた。
1年生の体育実技のクラスは2組に分かれていた。4月、まだ寮では新入生教育期間で先輩たちからしごかれている大志たち1年生24名が、体育実技の第1時間目として、体育館に集められた。大志たちは、体操着として、体育キットの中の、Tシャツにスエットの上下を着ていた。
怖そうな毛むくじゃらの猪熊が、整列して腰を下ろしている1年生の前に立ち、説明をはじめた。講義の進め方などの一般的な説明の後、
「5月から始まるラグビー、および、6月下旬から始まる水泳訓練の準備のために、これから、体育キットの中にあるものの説明をはじめる。 」
「まず、ラグビー用のユニフォームはジャージ、パンツ、ソックス、スパイクそしてラグパンの下に穿くサポーターだ。ラグパンの下にスパッツなどを穿くことは俺のクラスでは許さんからな。このサポーター一丁だ。昔は、ラグパンの下は、フリチンだったんだぞ。このサポーターは必ずつけること。サポーターは、お前らの大事なモノを、ケガから守る役目があることを忘れるな!ラグパンの下に、各自の下着を着ることは許さんからな! 」
「このサポーターのことを、ケツ割れサポーター、略して『ケツ割れ』と呼ぶ。」
集まった学生たちから笑いが起こる。
「お前らが、ラグパンの下にしっかり『ケツ割れ』をつけているかを、授業の前に、時々、抜き打ちで検査する!つけてないヤツは、厳しい罰を受けることになるから覚悟 しとけ!」
「は、はい・・・」
厳しい罰と聞いて、学生たちの間から笑いが消え、戸惑ったような返事が聞こえてくる。
「よし、これから、各自、このサポータをつけてみろ!それから、この白い名札代わりの布を腰のゴムの部分の前部に張っておくように。」
大志の隣にいた、寮で隣室の川原は、
「え〜!こんなの穿くのかよ!ケツがゲロ見えじゃん!」
とぶつぶつ言っていた。
大志もつけてみたが、なんか、股間が包まれるような感触があり、大志にとっては、必ずしも嫌いではないつけ心地であった。
「次に、水泳訓練のとき着用する、赤フンのつけ方を説明する!」
1年生たちは「赤フン」という言葉を聞き大爆笑するが、猪熊は、注意もせずに、自分のジャージ・トレーナーとケツ割れサポーターを、学生のいる前で、ためらうこともなく脱ぎ捨てるのだった。
猪熊は、引き締まってガッシリとした身体だった。重心が低く、頭が大きく首が太く、そして肩幅が広い。まさにラグビー選手といった体つきだった。
猪熊の身体を見て、大志は思わずドキッとする。猪熊の濃い胸毛は、 みぞおちから腹部にかけて1本の線となり、へその部分へと続いていた。そして、へその下、下腹のところで、その1本の黒い線は、デルタ状に広がり、その毛深い股間はまるで、密林のようであった。
「あっ、この前、寮で見た8ミリ映画に出てきた男のような体つきだ・・・。」
猪熊が全裸になったことに驚く1年生たちの前で、猪熊は、
「これから、六尺褌のつけ方を説明する。1度しか説明ないので、よくみておくように!あとから、お前たちにも、ここで、締めてもらうからな!」
「まずは、布を股間にくぐらし・・・・・・・」
猪熊はそう言いながら、手際よく、学生たちの前で、赤の六尺褌を己の股間に締め込んでいくのだった。
「・・・・・・・そして、最後に、股間前部の布、すなわち、前袋に錨のマークが正しくチンコの上に来ているかどうかを確かめて完成だ!錨のマークがおまえらのチンチンのちょうど真上にこなければ、やり直しだ!いいな!」
「今日のこのクラスは、24名だな。よし、これから、六尺締めの練習も兼ねて競争だ。締めた終わったやつは、俺のところに、見せに来い。おれが、確かめて、合格すれば、ジャージとトレーナーを着て戻ってよい。グズグズして、たかが褌を締め込むのに尻から5番目までの遅れをとったヤツには、モチベーションを高めるための罰がまっているから、覚悟しとけ!それでは、始め!」
猪熊の合図で、1年生全員は、全裸となり、赤フンを締め始めた。猪熊は、前のほうで、赤フン姿のまま仁王立ちになり、それを眺めている。
なかなか、錨のマークを股間前部にあわすことができずに苦労する1年生たち。合格しても、「締め方が足りん!」「チン毛がはみ出取る!しっかり袋の中に押し込んでおけ!」と不合格にされたり、「俺が直してやる」といって、褌の後ろの結び目を思いっきり引っ張り上げられ、褌がケツの谷間にグイっと食い込み、「痛てぇ〜!」と叫ぶ1年生もいた。
大志も、締め方が緩いと、猪熊にさらに堅く締めこんでもらい、「このケツに食い込む感じなんか癖になりそうだな!」と思った瞬間、猪熊の平手が、 大志の右ケツにパッシと飛んできて、「よし、合格!」と言われた。
最後に残った5人は、合格しても、ジャージとトレーナーをつけることは許されず、赤フン姿のままで残された。 そして、猪熊は、教官室からなにやら羽子板のような板を3枚持ってきた。三枚の板には、「気合」「根性」「規律」と文字が墨で色黒々と書かれていた。
「俺のクラスでは、お前らを鍛えるために、俺が必要と思うときはいつでも、この三枚の板で、お前らのケツをひっぱたくのでそのつもりでいろ!」
「ここに、残った5人は、気合とやる気が足らん。チンタラチンラタと、六尺ひとつ締めるの何時間かかっとるんじゃ!よし、これから、ひとり3発ずつ、この気合と書かれた板で、気合を入れてやる! 体育館の向こう側の壁に並んで手をついて、ケツを突き出せ!」
体育館の壁に沿って、横一列に並び、壁に手をついてケツを突き出す赤フン姿の5人の1年生。5人の顔は、赤フンのように、恥ずかしさで真っ赤なになっていた。
「よし、自分で数を数え、終わったら、気合をいれてもらった礼を言うように!まず、お前からだ!」
一番端で、赤フンが締め込まれたケツを出していた1年生が
「お願いします!」と大声でいう。
「よし、なかなか、いいぞ。覚悟しろよ。おれの気合入れは、ちょっと痛てぇーぞ!」
バシッィ〜!
と、「気合」と墨黒々と書かれた尻打ち板が、その1年生の左のケツペタに炸裂し、大きな音が体育館全体に響き渡った。
「あっ!痛ってぇ〜」と思わず叫んで、左ケツを手のひらでおさえるその1年生に、猪熊は、
「なにをしとる!ケツなんかさすっとる暇があったら、数を数えんか!元の位置にもどれ!はじめからやりなおしだ!」
左ケツに、バシッィ〜!
「いち!」
次は、右ケツに、バシッィ〜!
「に!」
そして、ラストは、センターに、バシッィ〜!
「さん!ありがとうございました!」
このようにして、赤フン姿の5人の気合入れがおわり、オリエンテーションは終了した。
その日の晩、大志は、山田先輩に、オリエンテーションでの気合入れのことを話すと、山田先輩は、
「そうか、熊さん、ケツを叩く新兵器を発明したんだな。俺たちの頃は、竹刀で殴られたけどな!」
すると、二年生の宮元先輩が、
「あれ、去年の秋からですよ。猪熊さんが、あの板使い始めたの。 なんか、アメリカの雑誌の秋季大学生シゴキ特集号に載っていたのを、マネしてつくったらしいッスよ。竹刀も痛いけど、あの板も結構、ケツに堪えるんスよね。」
それを聞いていた田中先輩が、
「お前、あぁ〜キクゥ〜、とかいってよがってるんだろ!」
と、宮元先輩をからかうのだった。
宮元先輩は、
「違いますよ!」
と顔を赤くして言った。
大志は、先輩たちの話を聞いて、なぜか、胸がバクバクし、股間に張ってしまったテントを隠すのに必死だった。
2年生の宮元先輩は、
「話は変わるけど、猪熊さんの体育講義のコンドームの装着法実演は、すげーヤバいから。楽しみにしとけよ!」
と、ニヤニヤしながら、大志に向かって言うのだった。
宮元先輩の話では、体育講義では、毎年、1年生のクラスで、自分にあったコンドームの正しい選び方と、竹刀の先端を使った、講師自らのコンドーム装着法実演おこなわれるらしかったのだ。大志は、先輩のその話を聞いて、顔をますます紅潮させるのだった。