「色柄を持たないパンツはく山崎すぐると、彼の担任の中村大悟」番外07頭髪検査と懲罰床屋1980のスピンオフ
「大悟の兄貴・圭悟と県立一高の仲間たち」 パート6 1982 圭悟たちの卒業
それは、大悟たちが住む県において、高等学校・普通科がまだ男女別学で、県下一の進学校・県立第一高等学校が、男子校だった頃のお話である。
プロローグ、谷岡のスラパンひとりH
太朗注: この節は、ツイッター上に公開された、おととさんのイラスト
https://x.com/otototo_/status/840512625511342081 (2025年06月02日現在 現存ポスト)
を参考にさせていただきました。
「ったく、丸(まる)も最後の最後までいろいろやらかしてくれるよな・・・」(太朗注:丸(まる)チームメートの丸山のこと。)
そういいながら、学ランズボンと白ブリーフを下し、自室の机上においてある小さな鏡に己のケツを写してみる谷岡。小学生の頃から野球で鍛えている谷岡のケツは、プリッとして肉厚。その小さな鏡には収まらないほどのデカ桃尻であった。
谷岡は、県下一の進学校・県立一高の高校三年生。硬式野球部に所属し、中村圭悟のチームメートだ。
「卒業式前だってのに、荒井監督、手加減なしだもんな・・・あ、あれ?・・・おもったほど、痕、残ってねーな・・・」
時は3月中旬。鏡にほんの少しだけ写っている谷岡のプリッと盛り上がった野球部野郎のケツには、その日、「卒業記念試合」後の整列で荒井監督から食らったケツバットの痕がうっすらピンク色に残っていた。
その日のケツバットは、荒井監督の3年間のケツバットの中でベストスリーに入るくらいのきついケツバットだったように感じた谷岡。帰りのチャリには難なく乗れたが、途中でケツがかゆくなり、何度もチャリをとめてチャリからおり、学ランズボンのケツをポリポリと掻いたりした。帰宅した頃には、指でケツを押すとちょっと痛む程度。もわっとしたケツのほてりもすでに消えつつあった。
「すげー痛かったけど、痕はたいしたことねぇーな・・・オレのケツも最近なまってきたのかな・・・大学でもきっとやられるんだろうな・・・ケツバット・・・、ケツ筋トレ再開しないとな・・・」
そんなことをつぶやいている間にも、谷岡の股間のイチモツは、ヌッと鎌首をもたげはじめ、前を覆う濃紺のアンダーシャツの生地を突き破りそうなくらいにモッコリとオッ勃起ち始めるのであった。そして、谷岡の男根の鈴口からほとばしる先走りの粘液は、谷岡の濃紺のアンダーシャツに滲んですでにシミをつくっていた。
「やっべぇ・・・急にシコりたくなってきた・・・夕飯前にちょっと一発、やることやっか・・・・」
谷岡は、そうつぶやくと、自室のドアからそっと顔を出して、隣の妹の部屋や、家の一階に家族の気配がないことを確かめるのだった。そして、安心したかのようにうなずくと、部屋のドアを閉めて、来週の卒業式が終わればおさらばとなる黒の詰襟学ランとおケツ観察のために膝までおろしていた学ランズボンと白ブリーフを一気に脱ぎ捨てる。
学ランの下は、アンシャツと呼ばれる野球のユニフォームの下に着る濃紺長袖のアンダーシャツの着っぱなし。そして、やや裾が長いアンダーシャツの下に隠れている谷岡のイチモツ。いや、もうそれは、隠れるどころか、その鎌首をもたげて、アンシャツの裾を半ばめくりあげてしまっていた。
谷岡は、もう自分のエロい気分を抑えることはできなかった。野球部のエナメルバッグに放り込んであった、さっきまで「卒業記念試合」ではいていた茶色くうす汚れたスラパンを取り出す。それは昨今の薄手素材でデザイン性を重視したスラパンと違い、昔ながらの生地が厚手のスラパン。野暮ったくはあるが、球児の竿とタマをやさしく包み込むように守ってくれるスラパンだ。
谷岡は、そのスラパンの腰ゴムをガバッと拡げて、それを両脚に通して一気に履きあげる。もう竿を上向きにしまい込む必要はなかった。谷岡の竿は、すでに下腹にペタっと張り付くように屹立していたからだ。「卒業記念試合」で履いたばかりのスラパンは、まだ汗で湿っており、最初はやや冷たい感触があったものの、すぐに股間をペタッとやさしく包み込む。
「あぁ・・・すげえいいかんじ・・・たまんねぇ・・・」
とつぶやき、谷岡はなんとも満足そうな顔つきをするのだった。谷岡は、右手で、スラパンの厚手の生地にくっきりと浮かび上がる、石のように硬くなった男竿を、生地の上から握りしめるようにつかむと、己の屹立した愚息を、必死に揉むように摩擦し始めるのだった。
アンシャツとスラパン姿になった谷岡は、やがて、自分のベッドにもぐりこみ、うつぶせになると、枕を抱えるようにして両手に抱き、なにやらあやしげに腰をクネクネと動かし始める・・・。
谷岡がそれを覚えたのは、中1の時の野球部夏合宿であった。谷岡の中学校の野球部監督は、暴力的な体育教師で、ケツバットもきつかった。夏合宿では、監督からのケツバットに加え、上級生からのケツバットも加わり、ケツにはいつも真っ青な痣をこしらえていた。
もちろん、合宿で一年生が夜寝る時はケツを上にむけたうつ伏せ状態。昼間のしごきで疲れきった上に、スラパンもまともに脱ぐことができない。スラパンを脱ぐ時、スラパンのきつめの腰ゴムが、ケツバットで痛めつけれらたケツと擦れて激痛に見舞われるからだ。
疲労で風呂にもまともに入る気になれない合宿中の唯一の楽しみは、寝ること。夜、先輩の締めの説教から解放されると、大部屋の自分の布団の中に倒れ込むようにして入り、汗と泥で汚れたスラパン履きッパのままうつ伏せになって寝る。その時だけ、下級生たちは、監督や先輩からのシゴキ、怒号、そして、ケツバットから解放される。
そんなある夜。谷岡は、隣で自分と同じくうつ伏せで寝ているヤツの薄い掛布団が、あやしげに上下左右にゆさゆさ動いていることに気づく。しかも、そいつの息づかいはやけに荒い。隣のそいつをじっと見つめてしまう谷岡。谷岡の視線に気が付いたそいつは、荒い息を押し殺して小声で谷岡にささやくのだった。
「バカ・・・ジロジロみてんなよ・・・ハァハァ、あぁ・・・」
「ご、ごめん・・・・」
「おまえ、知らないのか・・・や、やってみろよ・・・オ、オレみたいに・・・ハァハァ・・・あぁ・・・たまんねぇ・・・」
「えっ・・・・」
「さ、いいから、みてねぇでつきあえよ・・・きもちいい・・・あぁ・・・ぜ・・・あぁ・・・い、いっちゃう・・・」
隣のそいつの荒い息づかいが急に静まる。そして、掛布団の動きもピタリととまる。そいつは、ぐったりとして、己の枕に顔を埋めるのだった。
谷岡は、そいつの掛布団をめくって覗いたわけではない。しかし、掛布団がどうしてあんなにも怪しげにゆさゆさと律動するのかを谷岡は本能的にすでにわかっていた・・・谷岡も、隣のそいつと同じように、うつ伏せのまま、腰を上下左右にゆっくりと動かしながら、スラパンの股間を、自分が寝ているせんべい布団にこすりつけてみる。
とたんに、谷岡の股間に熱くて重いむずがゆさが襲ってくる・・・。それは、己の股間の反応であるにもかかわらず、抗することができないほど強烈であった。
「あっあぁ・・・・」
それはあっという間だった。スラパンの中に、もわぁと拡がる、生暖かいねっとりとした感触・・・。しかし、その時の谷岡にとって、その気持ち悪さよりも、いままで重かった股間が急に軽くなった爽快感の方がまさっていた。
ケツバットでさんざん痛めつけれ、腫れて疼くケツの熱り(ほてり)。そして、股間を包み込むネットリとした37℃の粘液の生温かさ。中学野球小僧だった谷岡は、その感覚に、下半身が温かい蒸しタオルで包み込まれるような極上の心地よさを感じながら、眠りに落ちていくのだった・・・。
受験勉強と入学試験。緊張の連続の中で、ここ一か月ほどの間に、谷岡のストレスは、最高潮に達していた。同時に、知らず知らずのうちに、狂おしいほどに重く悩ましくなっている谷岡の股間のイチモツ。
その日、後輩たちを相手にした「卒業記念試合」で、ストレス発散はできたものの、青春真っ只中の谷岡にとって、己の股間のイチモツをなぐさめてやらないわけにはいかなかった。
「ったく、最後の最後まで、連帯責任のケツバットだもんなぁ・・・監督も厳しいぜ・・・まあ、でも、久々のケツバットのガツン感、味わえてよかったぜ・・・」
谷岡は、今日の出来事を思い出しながら、それをオカズにしようとしていた。
3年生部員全員、整列させられてのケツバット。久々のケツの痛みとそのあとのケツ熱り(ほてり)とかゆみ・・・。どれをとっても谷岡にとって、極上のオカズであった。特に、その日のケツバットの原因をつくったチームメートの丸(まる)こと丸山の顔は、谷岡にとって、その日のディナーのメインディッシュだった。腰をクネクネ動かしながら、スラパンの股間をベットシーツの上にこすりつける。
「丸(まる)は、ケツバットの後、監督と一緒にオヤジさんに謝りに行くって聞いて、マジ、泣きそうな顔してたよな・・・丸(まる)のオヤジ、県商野球部出身で、すげー厳しいって話だから、ただで済むはずねぇーよな・・・フフフ・・・明日の納会の時、一緒に風呂入るのが楽しみだぜ・・・おっおお・・・ひさびさ・・・この快感・・・あっあぁ・・・やばい・・・もういっちゃいそうだぜ・・・」
そんなことをつぶやきながら、クネクネと動かしていた腰をピタッととめ、うつ伏せのままやや腰を浮かす谷岡。しかし、己の重い股間をじらすのには限度があった。谷岡は、すぐに、枕を両腕でグッと抱きしめ、スラパンの股間をやや浮かしたり押し付けたりしながら、さっきよりも激しく、腰を卑猥にクネクネと動かす。股間を包むスラパンの生地とベッドのシーツがこすれて発する熱が、スラパンの生地を通して、谷岡のイチモツに伝わってくる。そして、スラパン生地と谷岡の竿もこすれて一段と熱く悩ましくなってくる。18歳谷岡の股間のイチモツは、もうかつてないほどに熱をもちビンビンに屹立して下腹にへばりつき、その鈴口から惜しみなく漏れ出す先走りを、下腹にネチョネチョに塗りつけていた。
「おっおお・・・ひさびさ・・・こ、この感じ・・・あっあぁ・・・いっいい・・・スラパン・・・たまんねぇ・・・あっ・・・ああ・・・も、もうダメ・・・い、いっちゃう・・・・あっあぁ・・・うぅうっ・・・イクぅ・・・」
抗しがたい快感とともに、ドクッドクッといううずきをスラパンの中に感じる谷岡。全身から力が抜けていく・・・。ぐったりと枕の上の顔をうずめるように伏して、うなだれる谷岡。股間の爽快感と全身の脱力感・・・そんな中、ふと、意識だけは進学校に通う優等生に戻る谷岡。股間が生温かいねっとりとしたものでつつまれているのを感じながらも、なんともいえない罪悪感にさいなまれる。
「やっべぇ・・・おふくろに気づかれないようにシーツとスラパン洗濯しないと・・・ムニャムニャ・・・まあ、あとでいっか・・・夕飯まで寝るか・・・」
とつぶやく。ほどなく谷岡はスースーと気持ちよさそうな寝息をたてているのだった。
一、卒業記念試合後の整列
卒業式を目前に控えた三月中旬の週末。土曜日・午後の県立一高・硬式野球部の部室は、部員たちの声で賑やかだった。期末試験を終えたばかりの1・2年生部員たち。そして、国立大学の合格発表も終わり、「受験戦争」から戻ってきたばかりの3年生部員たち。彼ら先輩チーム対後輩チームの「卒業記念試合」が、その日の午後に行われたのだった。
中村圭悟たちの三年生チームは8人で、人数が足りないため、県立一高における新・情報教育科目導入の責任者で期末考査の採点負担が少ない数学担当の川上一人先生が9番・ライトとして参加していた。
試合は、その川上先生が適度に足を引っ張ってくれたおかげで、4対3で、3年生チームの辛勝だった。
そして、試合後の部室。
「ったく、川上ってほんと野球部出身なのか?あんな簡単な球、落としやがって・・・あれ、ぜってぇーライトフライだったぜ・・・」
「まあ、いいじゃんか圭悟、川上が参加してくれたからどうにか引退試合できたんだしさー、それに、オレの満塁ホームランで逆転できたんだからさ。」
「まあ、そうだけど・・・卒業記念試合で負けたら、3年の面目、丸つぶれじゃん・・・荒井監督も助っ人選ぶならもっとましな助っ人選んでほしかったよな・・・」
「まあ、そういうなって・・・川上だって久々の硬球で勘が戻ってなかったんだと思うぜ・・・」
高1・高2と一時間目の数学で、遅刻を理由に、川上先生から布団叩きでケツをビシビシ叩かれたからだろうか、川上先生のその日の野球プレーに手厳しい中村圭悟を、親友の丸山良太がなだめるのだった。
(太朗注:川上先生の布団叩きによるケツ叩きについては、
< 番外07 スピンオフ02 第二章 進学校・遅刻の罰は・・・ > を参照してください。)
「なんだよ、丸(まる)・・・おまえ、川上には、やけにやさしいじゃんか・・・」
「まあな・・・三年の文系数学演習で、あいつには結構、世話になったからな・・・ケツもビシビシ叩かれたけど・・・まあ、大学に合格できたんだから、いいってことさ・・・」
丸山は、三年生部員の中で、一人、国立大学受験一本に絞り、見事、国立・一橋商科法経大学・商学部に現役合格を果たしていた。国立・一橋商科法経大学は、二次試験受験科目にも数学がある難関校だが、県下一の進学校・県立一高においても選択履修者の少ない「高三・文系数学演習」で、担当の川上先生を、ちゃっかり家庭教師代わりに独占し、万全の数学受験対策をとっていたのだった。
一方の圭悟も、第一志望の帝都理科大学・理学部・物理学科に現役合格を果たしており、4月からは川上先生の「後輩」になるわけであった。もちろん、圭悟や丸山だけでなかった。その年の県立一高・硬式野球部の3年生部員たちは、8人全員が第一志望校に現役合格を果たしていた。特に、硬式野球部一番の優等生で、主将だった北村は、早々、帝都経済大学・経済学部に推薦合格を決めており、奨学金支給資格もゲットしていた。
そのような状況である。圭吾の機嫌もすぐによくなり、3年生部員たちは、気の合うもの同士、ワイワイガヤガヤと、その日の試合のことや、入試での武勇伝・自慢話に花を咲かせていた。
しかし、そんな部室の入り口のところで、突然の怒号が響き渡るのだった。
「コラァ!!静かにしろ!!3年生は部室前に整列!!」
騒がしかった部室が、シィ〜ンと静まり返り、部員全員が、その怒鳴り声の聞こえてきた方に顔をむける。もちろん、その怒号の主は、見るまでもなく、監督の荒井先生だった。
「えっ・・・3年生だけ整列・・・」
「うわぁ・・・あの怒鳴り声、久しぶり・・・なんか嫌な予感がするぜ・・・」
県立一高・硬式野球部では、紅白戦など校内のグランドを使った練習試合の後、グランド整備も含めた後片付けが十分でなかった等の理由で、荒井監督から整列の号令がかかることがしばしばあった。そんな時は、説教だけでなく、悪くすればケツバットが待っている。通常なら、緊張の面持ちで、すぐさま部室前に整列するところなのだが、「受験ボケ」してしまっている圭悟たち3年生部員の反応は鈍かった。
「コラァ!!なにボケっとしている!!部室前に整列だ!!聞こえんのか!!早くしろ!!」
2年生で新主将の宮林真司が、北村に「せ、先輩・・・整列です・・・。」と小声で言う。
北村は、「おっ、おう・・・わかってる・・・」とつぶやくように言うと、他の三年生に向かって、
「おい!!3年!!整列だ!!」
と声をかける。
「ィ〜〜〜ス!!」
前主将・北村の声にやっと調子が出てきたのか、以前のように、北村に応答する圭悟ら3年生部員たち。
1、2年生部員たちが心配そうに見守る中、3年生部員たちは、不安げな表情を見せながら立ち上がり、部室前へと出ていくのだった。
部室前に整列した3年生部員たちを前にして、いかにも不機嫌そうな顔をしている荒井監督。
「なんだよ・・・まただれかやらかしたのかよ・・・」
「・・・もしかして、ケツバットか・・・」
「ちょっと・・・ケツバットだけは勘弁してくれよ・・・オレたち、来週、卒業式だぜ・・・」
と、部員たちの誰もが思うのだった。
荒井元親(あらい もとちか)監督31歳は、社会科教諭として県立一高に赴任して来て以来、その年度で硬式野球部とのつきあいも丸5年となる。県立高校・教諭の在任期間としては長い方だったが、これも文武両道を謳う県立一高において硬式野球部への貢献が評価されてのことだったのかもしれない。
荒井監督は、硬式野球部員たちにとって、時にはやさしく、時には厳しい兄貴のような存在。真っ黒に日焼けし、丸刈り頭。身長は178cmほどで、県立一高にあっては、大方の硬式野球部員よりも背が高かった。野球では県下一の強豪校である県立商業高校出身。野球で鍛えた荒井監督のケツは、野球のユニフォームを通してみると、31歳にしてまだまだムッチリとした安定感を漂わせていた。
甲子園常連校であった県商・硬式野球部出身だけあり、野球の技術は一流のものを持っていた。しかし、だからこそ荒井監督は、県立一高という進学校の野球部においては、部員たちをいくら厳しくしごいてみたところで、部員たちの運動能力と野球のレベル向上には限界があることを、十分すぎるほど認識していた。
高校になって初めて本格的な硬球を使った野球を経験する生徒も時として入部してくる。そんな状況下、荒井先生の指導は、野球の技術よりも、挨拶や礼儀、自己管理といった人間性の成長に重きがおかれていた。もちろん、名門進学校とはいえ、野球部は野球部。優等生の中でもやんちゃな部類の生徒たちが入部してくるため、時には、ケツバットによる厳しい指導も行われた。しかし、それは野球指導というよりも、生活指導としてのしつけの側面が強かったのだ。
荒井監督の不機嫌そうな顔と、手に持つノックバットに、その前で整列している3年生部員の誰もが、ケツバットを予感し、ケツをキュッと引き締めつつ、荒井監督の言葉を待つのだった。3年生たちは、まだ全員、試合で着た少し汚れたユニフォームのままであった。
一方、部室に残った1、2年生たちの間には、試合後のなごやかな雰囲気から一転、超気まずい空気が流れていた。新主将の宮林は、すぐさま部室の扉を閉め、後輩には、「先輩方が戻ってくるまで、静かにしてるんだ。着替えはとりあえずあとにしろ。」と指示を出すのだった。1年生部員も2年生部員も、薄汚れたユニフォーム姿のまま、その場に立って、下をじっとみつめていた。
「本日、明日の納会のためのジュースやコーラなどの飲料が届いた。」
それを聞いて、一瞬、緊張の糸が緩んだのか、
「おお!!」
と整列した部員たちからうれしそうな声があがる。
一方、荒井監督は、3年生部員たちをさえぎるように、さらに語気を強め、
「しかし!!オレが注文した記憶がないこれも届けられた!!これが何かわかるか!!」
荒井監督は、そう言うと、整列する3年生部員たちに指し示すかのように、ノックバットの先で、足元におかれた黄色いプラスティック製のビールケースを軽くコンコンと叩くのだった。
圭悟たち3年生部員たちの目が、荒井監督の足元に一斉に集まる。それは北国(ほっこく)ビール大瓶20本が入ったビールケースであった。
「えっ、ビ、ビール?」
誰かがそう口にしたとたん、整列した3年生部員たちは少し興奮気味に、
「おお!!すげえ!!」
「おお!!ビールだ!!」
「先生!!納会でビール飲んでいいんですか?」
と口々に言う。
しかし、
「バカもの!!なにを考えてる!!」
荒井監督の真剣な怒鳴り声が部室前のグランドに響き渡る。3年生たちは、再び、ピリッと緊張し、また部室内にいた1,2年生部員たちの空気もピンと張り詰めたものになるのだった。
そんな中、中村圭悟の隣で整列していた丸山良太が、
「あっ、やべぇ・・・バレたか・・・」
と小声でつぶやくのだった。
「お、おまえ・・・」
と、思わず、圭悟は丸山の顔を見る。圭悟と目のあった丸山は、ニッと不敵な笑みを浮かべる。
「ったく・・・バレるに決まってるだろ・・・オレは、もう知らん・・・」
と圭悟はあきれたような顔をするのだった。
主将の北村が、不愉快そうな表情をありありと浮かべて、
「監督!!飲食物を学校に直接届けてもらうには、先生のハンコが押された申し込み用紙が必要です!!」
と言うのだった。
優等生の北村らしい、「DUE PROCESS」すなわち「適正なる手続き」の説明であった。部活動など生徒の諸活動において飲食物が必要な場合、硬式野球部の場合であれば、かならず、硬式野球部長である荒井監督の決済印が押された書類が必要で、その書類を店に持参して、直接、店主に渡して注文する必要があった。生徒が勝手に電話注文しても、その注文を不用意に受けて注文品を学校に届けないよう、近隣の商店と学校の間で、協定が交わされていたのである。
実際、今回の「納会」の幹事役を務める2年生で新主将の宮林真司が、一週間前、期末試験の準備で忙しい中、荒井監督の決済印の入った注文書と代金を荒井監督から預かり、その注文書を商店街の「丸山酒屋」へ届けたばかりだった。「丸山酒屋」は、大悟や圭悟たちが住む街において、県及び市の認定取引業者となっており、市立中学や県立高校から、学校行事のための飲料の注文を受けることが多かったのである。そして、その店は3年生部員の丸山良太の父親が営む酒屋でもあったのだ。
「だからなんだ!!」
「ですから、それを注文したのは自分たちではないです!!」
きっぱりとした口調で、自分たち3年生の潔白を主張する北村。
しかし、その北村の自信をもった返答を真っ向から否定するように、整列していた丸山が、自慢げに一歩前に出ると、
「監督!!そのビール、持ってきたのは自分です!!午前中、試合が始まる前、オヤジの酒屋の店員と一緒に持ってきました!!」
と、悪びれる風など一切なく、さらりと言ってのけたのだった。
3年生部員の列から爆笑が起こる。
「おお、こりゃ、丸さんのおごり!?」
との声も飛ぶのだった。
それに応えるかのように、丸山は、左右を振り返りながら、両手でピースポーズをとる。
「ビール、俺のおごりです!!監督!!一緒に飲みましょう!!明日の納会で、合格祝いの盃を酌み交わしましょう!!!」
全く罪悪感のない丸山は、自慢げにそういうのだった。もちろん、それはウソではなかった。ビール代は、丸山自身が親戚の人たちからもらった「大学合格祝い」の祝儀袋から出したものだったのだ。そして、父親の店の店員からは、「良太君、お父さんにバレたらやばいんじゃないの?」と言われるのも聞かず、「大丈夫、大丈夫っすよ。もう斎藤さんったら、心配性だな・・・」と言って、配達用の小型トラックの荷台にビールの大瓶1ケースを勝手に積み込んで学校へ一緒に「配達」に来てしまったのだった。
「おお!!いいね!!」
と、3年生部員の一部からは、拍手と歓声が起こる。もちろん、圭悟は呆れ返った顔つき、そして、野球部一の真面目君である北村は、もう苦虫をつぶしたような表情で、もう半分あきらめているのか、「もうどうにでもなれ・・・オレは知らん・・・」と言った風に真っ赤な顔をして両目を閉じて立ち尽くしていた。
「バカ野郎!!調子にのるんじゃねぇ!!」
再び、荒井監督の怒号が部室前に響く。荒井監督にはめずらしく、怒りで顔が真っ赤だった。
「やっばぁ・・・監督、マジ怒ってる・・・・」
と、整列している3年生部員たちの手にじんわりと汗がにじんでくる。
一歩前に出て、堂々と「監督!明日は一緒に飲みましょう!!」と言ってしまった丸山良太も、監督が激怒していることに気がついたのか、
「えっ・・・も、もしかして、オレ・・・やらかしちゃった・・・」
と思い、心臓がはちきれんばかりにバクバクと鼓動を打ち始めるのだった。
そんな中、やはり整列している谷岡は、
「こりゃ、マジでケツバットになるかも・・・」
と思う。まさか卒業記念試合の日にケツバットを受けるなんて予想もしていなかった谷岡の心臓はドキッドキッと高鳴り始め、スラパンに包まれた股間が急に熱くなるのを感じる。心臓の鼓動に共鳴するかのようにドクン、ドクンと谷岡の男竿が脈打ち始めていたのだった。
四、部室の内と外〜2年生主将・宮林真司の想い〜
監督の怒鳴り声、そして、北村や丸山の声は、当然、部室にも聞こえてきていた。
新主将・宮林真司は、
「あーあ・・・良太兄ちゃん、調子に乗りすぎてる・・・国立大学に合格したとこまでは、カッコよかったのになぁ・・・」
とつぶやきながら、顔をしかめるのだった。
宮林真司と丸山良太は、家が隣同士で、幼馴染の従兄弟同士。お互いの母親が姉妹であった。
高校に入学し、硬式野球部に入部する時、宮林は、丸山から、
「シンジ!!部活でオレのこと、良太兄ちゃんとか絶対に呼ぶなよ!!呼んだらケツバットだからな!!」
と言われており、宮林は丸山のことを部活では「丸山さん」と呼んでいるが、普段は、子供の頃から「良太兄ちゃん」と呼ぶ間柄だったのだ。
<プチスペシャル02 良太と真司 幼馴染秘話 を読む。>
<太朗注:フラットな部活組織運営を目指す、県立一高・硬式野球部では、先輩を先輩と呼ぶことを禁じ、その代わり、「さん」づけで呼ぶことになっています。>
一方、野球部の部室では、1年生部員たちが、2年生・新主将・宮林真司の指示を守らず、部室の窓をほんのわずかだけ開けて外を覗きながら、好奇心をむき出しにして、荒井監督と3年生部員たちとのやりとりに耳を傾けている。
「おい、丸山さん、学校にビール持ち込んだんだってさ・・・」
「うわぁお!!学校にビール!!すげぇじゃん!!」
「丸山さん、やるな!!かっこいい!!」
「おお、監督さんに一緒に飲みましょうとか言ってる・・・・」
「もう丸山さん、最高・・・」
「さすがにオレでも、監督にビール一緒に飲みましょうとか、ぜってぇー言えねぇよ・・・もちろん、家でちょっとくらいビールも飲んでるけどさ・・・オヤジと・・・」
「やっべぇー、監督、マジ激怒してるぜ・・・」
「えっ?マジ・・・俺にものぞかせろ・・・うわぁ・・・外の空気、ヤバすぎ・・・こりゃ、ぜってぇーケツバットだろ・・・」
「ああ、最低でも丸山さんはやられるよな!」
荒井監督と3年生の様子に、興奮気味の1年生部員たち。そんな後輩たちの様子を見て、2年生・新副主将の田所が、主将の真司に、
「ったく、あいつら、全然、おまえの指示を守ってねーじゃん・・・ちょっと締めた方が、いいんじゃねぇか?」
とささやく。
しかし、真司は、
「まっまあな・・・あいつらもそのうち、飽きるだろ・・・」
と応えるだけで、どうにも煮え切らない。
真司は、後輩たちにとって、やさしい先輩であり、甘い新主将であったのだ。
「ったく・・・だから、後輩になめられるんだよな・・・オレたち・・・」
と、不満を隠さない田所。
そんな田所に、真司は、戸惑ったような表情を見せるだけだった・・・。
・・・・・・・・・・・・・
部室前のグランドで整列させられている3年生部員たちは、荒井監督の怒りにふれ、丸山のしでかした行為がいかに愚かであったかをすでに自覚していた。
もちろん、丸山自身も、学校の部活動にビールを持ち込もうとしたことを後悔しているのか、真っ赤な顔でいまにも泣き出しそうな表情であった。
荒井監督は、沸々と湧き上がってくる怒りをどうにかコントロールしながら、3年生部員たちにケツバットを宣言する。
「おまえら全員、ケツバットだ!後ろ向いてケツ出せ!!」
それを受けて北村が、3年生全員に、
「3年全員、回れ右!!」
と号令をかける。
「ィ〜〜ス!!」
圭悟たち3年生部員全員が、一斉に、それに応える。
・・・・・・・・・・・・・
整列している3年生部員8人全員が、今度は部室の方に顔を向ける。部室の窓をわずかにあけて、それをのぞき込んでいる1年生部員たちに、ケツバットに直面した先輩たちの顔が手に取るようにわかるのだった。
窓からのぞく1年生部員の鈴木と山本が、ヘラヘラ笑いながら、3年生部員の顔を一人一人観察していくのだった。
「おっおぉ・・・北村さん、かっちょいいーー、ケツバットの前でも冷静沈着な顔つき・・・」
「ワハハハ・・・いつもクールな北村さん!!」
「うわぁ・・・おもしれぇーー、清野さん、さかんにうしろチラチラみてるぜ・・・」
「わかるなぁ・・・始まるまでのあの間が嫌なんだよな・・・ケツバットって。」
「おぉ〜〜と、寺田さん!!メガネをさかんに気にして指で押しあげています!!汗でメガネがずり落ちてくるのか!!」
「そうですね〜、あれは汗じゃないでしょう!!メガネがデカすぎるのでしょう!!もう大学生になるんだから、そろそろ新しいメガネを買ってほしいところです!!キャハハハ!!」
「おっと、谷岡さん!!余裕の笑みを浮かべております!!」
「おお、さすが、ケツバットの前の余裕の笑みは不気味でさえあります!!キャハハハハ!!」
「うわぁ!丸山さんの顔、さいこー、キャハハハハ!!」
「もう泣きそうな顔してるぜ・・・キャハハハハ・・・」
「かっこわりぃ・・・丸山さんって、かっこいいのはいつも途中までなんだよな・・・途中でなぜかこける!!キャハハハ!!」
「いえてる!いえてる!!キャハハハ!!」
「コラァ!!おまえら、いい加減にしろ!!」
後ろから聞こえてくる怒鳴り声に、ギクッとして振り向く、一年生部員の山本と鈴木。そこには、ノックバットを右手に持って、二人を睨みつけている2年生・宮林主将が立っていた。
「よっしゃ!!真司、いい調子、いい調子、それでこそオレたちの主将だ!!」と思い、右手拳をグッと握りガッツポーズをする副主将の田所。
「そと、のぞくなって言っただろ!!男のクセにぺちゃぺちゃ、しゃべってんな!!そこに正座してろ!!あとでケツバットだ!!」
「えっ・・・こっちでもケツバット・・・」
「えっ・・・宮林さんが・・・めずらしい・・・・」
ざわつく一年生部員たち。
いつもはやさしく物静かな宮林主将の怒鳴り声に、山本も鈴木も、驚き、しょげ返り、真っ赤な顔になって、
「は、はい・・・すいません・・・」
と小さな声でいいながら、宮林主将がノックバットで指し示す、部室の隅の方へ行き、素直に正座するのだった。
宮林主将は、ざわつく1年生部員たちを、「何か文句あんのかよ?」と言った顔をして睨みつける。まだ幼さの抜けきれないやんちゃな少年顔の1年生部員たちは、うっすらと無精ひげがはえてきている2年生・宮林主将の真剣な顔つきに、一瞬で静まり返り、「こっちにとばっちりがきてはかなわん」とばかりに、全員、主将と目をあわせないように下を向いてしまうのだった。
やっと硬式野球部の主将らしさを後輩に見せつけてくれた宮林に、満足そうな顔の副主将・田所。
一方、宮林真司は急に冷静になり、再び顔色を曇らせる・・・。
「あー・・・ついカッとなって後輩のこと怒鳴っちゃたよな・・・たしかにあいつらの言う通りなんだよな・・・良太兄ちゃん、かっこいいのは、いつも途中までなんだよな・・・(;´д`)トホホ・・・あー、それにケツバットととかいっちゃったよ・・・オレはケツバットをしない主将じゃなかったのかよ・・・あー、もう、サイテーの展開・・・」
と、1年生部員の鈴木と山本が図星を指すのを聞いてついつい怒鳴ってしまった自分のことを反省する真司。そして、調子に乗りすぎた良太兄ちゃんのことを考えて悔しそうな顔をするのだった。
丸山が野球部の納会にビールを持ち込もうとしたことに対して、荒井監督は容赦なかった。
「本日、丸山のしたことがいかに軽率だったかを、これから、おまえら8人のケツにたっぷりとお教えてやる!!歯を食いしばって待ってろ!!」
列の一番端で整列している前主将・北村が、
「お願いします!!」
とデカい声で、監督の指導を願い出る。そして、両手拳を握り、万歳の体勢をとったかと思うと、上体をやや傾け、ユニフォームのケツを後ろに潔く突き出すのだった。
「いくぞ!!」
バン!!
荒井監督のノックバットが情け容赦なく、北村のユニのケツを下から狙い撃ちするように強襲する。
ガッツゥ〜〜ン!!
と、ケツから脳天へ突き抜ける衝撃。
「うぅ・・・」
北村にしてはめずらしく、うめき声をあげ、右足を一歩前に踏み出し、よろけそうになる。ケツに焼けるような痛みをジリジリと感じる。その日のケツバットは、荒井監督の進学校・球児向けケツバットとしては「中程度」のキツさであったが、数か月ぶりに受ける監督からのノックバットによるケツバット指導は、北村のなまったケツには予想外の試練となった。
「ご、ご指導ありがとうございました!!」
監督にそう礼を言って、もとの直立不動の体勢に戻る北村。尻をさすりたいのを必死で我慢しながら、悔しそうに唇をかみしめる。ケツに焼けるような痛みがジンジンと襲ってくる。
北村の隣の前・副主将の横山は、北村のうめき声をきいて、ゴクリと生唾を飲みこみ、まもなく己のケツへも荒井監督の指導が入ることを覚悟する。
「よし!次!いくぞ!!」
の声が聞こえるのが早いか、横山は、
「お願いします!」
とデカい声で、高校球児らしく、一気に短く叫ぶように言う。「お願いします!」の「お」はほとんど聞こえず「ネガイシャス!」に聞こえる。横山の野太い「ネガイシャス!」の雄叫びが、部室前そしてグランドに響きわたる。そして、おもむろに、すでに拳を握った両手を上に挙げ、両脚をやや広げながら上体を傾け、後ろにケツを突き出す。
横山の「ネガイシャス!」の雄たけびは、圭悟たちこれから指導を受けなければならない3年生部員たちの覚悟をも新たにさせる。
バン!!
横山のケツを荒井監督のノックバットが容赦なく打ちのめす。
ガッツゥ〜〜ン!!
ケツをドンと押されるような衝撃に続いて、ジリジリと襲ってくるケツの痛み。横山は思わず目をつむってしまう。しかし、リトルの頃から条件反射なのか、
「ご指導ありがとうございました!!」
の礼を言い忘れることはなかった。もとの体勢に戻った横山は、己のケツペタから放たれる輻射熱で、スラパンの中がジンジンと熱を帯びてくるのをいやが上にも感じるのだった。
・・・・・・・・・・・・・
「ネガイシャス!」
バン!!
「ご指導ありがとうございました!!」
「ネガイシャス!」
バン!!
「ご指導ありがとうございました!!」
3年生の先輩たちへの荒井監督のノックバットによる容赦のない指導が行われている、その声と音が、部室内の1,2年生たちにも聞こえてくる。まだ懲りないのか、お互い顔を見合わせて、ニヤニヤ笑っている部員もいれば、荒井監督から食らったケツバットの辛さを思い出し、ギュッと両目を閉じたままの部員もいる。
そんな中、宮林真司は、そろそろ「良太兄ちゃん」にもケツバットの番が回ってくると思い、いたたまれない気持ちになる。
「ネガイシャス!」
それは紛れもまく「良太兄ちゃん」の声だった。真司は、思わず耳をふさぎたい気持ちになる。「いよいよ良太兄ちゃんの番だ・・・」真司はそう思い、まるで自分がケツバット指導を受けるかのように、己のスラパンにつつまれたケツを思わずキュッと引き締めるのだった。
そんな真司の耳に、
「あ、いよいよ、丸山さんの番だ・・・。」
「フフフ、なんか泣きそうな声・・・・。」
「おもしれぇー。」
と、後輩たちのひそひそ話が飛び込んでくる。
「おまえら、うるせえ!残りの1年も全員、正座だ!!」
と怒鳴る真司。
驚いたような1年生部員たちは、「えっ・・・俺たちも・・・」といった顔をして、なかなか正座しようとしない。
そんな1年生部員たちに、副主将の田所が、
「おまえら、なめんじゃねぇ!!主将の命令がきこえねーのか!!ケツバットも追加!!」
と怒鳴る。それが呼び水となり、他の2年生部員たちも、
「オラァ!おまえら、チンタラしてんじゃねーよ!!」
と言いながら、グズグズしてなかなか正座をしない1年生部員たちを小突きながら、正座させていくのだった。
・・・・・・・・・・・・・
部室前のグランドで、真っ赤な顔で荒井監督の方へケツを突き出している丸山良太。荒井監督が激怒するとは想定外だったが、ちょっとした不良性を発揮して、父親の店のビールを学校に持ち込んでしまったことを後悔するのだった。
「やべぇ・・・みんなに迷惑かけてる・・・」
そう思ってももう遅かった。
バン!!
という音が耳に飛び込んでくると同時に、
ガッツゥ〜〜ン!!
という重い衝撃が、丸山のケツから全身へと伝わっていく。そして、その一瞬の衝撃波が去ると、今度はケツがジリジリと焼かれるように熱くなり、思わずケツをさすりたくなるようなジンジンとした痛みがやってくる。この痛みは、お涙頂戴もののツラサだ。
丸山は、久々に感じるケツバットのズシーンと響く重い衝撃とその後に続くジリジリとした焼けるようなケツの痛みに涙目になりつつも、やはり反射的に、
「ご指導ありがとうございました!!」
と叫んでいるのだった。
「よし!次!いくぞ!!」
と荒井監督。
「なんだよ・・・・みんなに迷惑かけといて、オレたちと同じ1発かよ・・・」と思う北村や横山。
「ふぅ・・・・みんなと同じ1発か・・・」と思い、ちょっと拍子抜けし、また、同期の連中に少し後ろめたい気持ちになる丸山。
しかし、そう甘くはなかった。3年生全員へのケツバット指導が済んだあと、荒井監督は、丸山に、
「丸山!!オレと一緒に、ちょっと来い!!期末試験の採点が済むまで、職員室前で正座だ!!そのあと、おまえのオヤジさんの店にオレと一緒に謝りに行く!!」
と宣言する。
「えっえーーーか、監督・・・・い、いいです・・・オレが家にビールを持ち帰って、オヤジに謝りますから・・・」
と、さっきよりもさらに真っ赤な顔で、あわてた様子で監督に言う丸山良太。
「ダメだ!!俺も一緒に行く!!」
「か、監督・・・な、何時間でも正座して反省しますから・・・一緒に来るのだけは、かんべんしてください・・・」
監督に泣きすがるように言う丸山。しかし、監督は、
「ダメだ!!男だったら、グズグズ言わずにオレについて来い!!他の者は解散だ!!」
と一喝。
荒井監督の厳しい態度に、丸山は、泣きべそ顔で、「やっべぇ・・・このことがバレたら、オヤジにころされちゃうよ・・・」とさかんにつぶやきながら、うなだれるように下を向いて、荒井監督のあとについて、職員室の方へと行くのだった。
その様子をみながら、他の3年生部員たちは、荒井監督の丸山へのお仕置きはこれからが本番であることを知る。
北村や横山は、「当然だろう。ケツバット1発じゃ甘いぜ。」といった表情をし、丸山と仲がいい、中村圭悟や森は、「あーあ・・・丸山、泣きそうじゃん・・・でもしゃーねーかな・・・」といった表情で、監督のあとにトボトボとついていく、すっかりとしょげ返った丸山を見送るのだった。
そして、3年生部員たちの中で、一人、ニヤニヤした表情の谷岡。「丸山のオヤジって、野球部出身で超スパルタだって話だからな・・・フフフ。」と思いながら、丸山が1年生の時、チームメートに得意げに自慢していたことを思い出すのだった・・・。
「荒井監督のケツバットなんかさー、うちのオヤジのケツバットの比べたら、軽りぃ軽りぃ・・・ケツ、なでられてるようなもんだぜ!!」
そんな丸山の言葉を思い出すと、谷岡のスラパンにピタッと包まれた股間のイチモツは、熱く狂おしくうずいてくる。そのうずきは、ケツバット指導を受けてホッカホッカの肉まん状態にあるケツペタの熱くむず痒いうずきをはるかに上回るものだった・・・。
六、後輩教育とは理論ではなく実践である!!〜前・副主将・横山の指導〜
荒井監督から連帯責任の指導をケツに受けて、部室に戻ってきた3年生たちの機嫌は概ねよろしくはなかった。「卒業記念試合」直後の和やかな部室の雰囲気がウソのように、ピンと張り詰めた空気がその場を支配する。
当然、宮林たち2年生は、3年生たちの着替えスペースをしっかり確保して、遠巻きに3年生たちをみつめている。挨拶すべきかどうか迷っていた。
北村のように、2年生や、正座させられている1年生のことは無視し、無言のうちに着替えを始める3年生もいれば、圭悟たちのように、ちょっと気まずそうな顔つきで、後輩たちを一瞥し、
「ケツいってぇ・・・今日の監督のケツバット、マジ、鬼じゃなかったか・・・」
と、お互い、小声で話しながら、着替えを始める者もいる。
特に、3年生たちのスラパンを脱いだ後、白ブリーフを履くまでのスピードは、通常の比ではなかった。みな、後輩たちに、己のケツについた荒井監督からの恥辱の指導印を後輩たちにみられないようにしているのだった。
しかし、清野のように、後輩たちに背を向けて、着替えを始めたため、不覚にも、己の生ケツを後輩たちの好奇の視線の前にさらしてしまう3年生もいる。もちろん、男同士である。普段は、後輩たちに生ケツをみられることなど、まったく気にしない3年生たちも、その時の荒井監督のケツバット指導は、よほど恥辱に満ちていたのか、後輩たちの視線に気が付くと、
「ジロジロみてんじゃねーよ!!」
と、後輩たちを睨みつけるのだった。
「す、すいませんでした!!」
清野先輩のケツにうっすらとついたピンク色のケツバット痕を、思わず見てしまった宮林新主将は、すぐに目を背け、清野に謝るのだった。
「チェッ!」
清野の舌打ちが、宮林の耳には痛かった。
そんな3年生の中で、一番最後に遅れて部室に戻ってきた横山の機嫌は、すこぶる悪かった。部屋の隅、グランドとは反対側の壁に沿って、1年生たちが正座させられているのを見て取ると、不機嫌そうな強い口調で、
「おい!宮林!!こいつら、なんで正座してんだ?」
と新主将に問いただしてくるのだった。
宮林は、あわてて、
「は、はい・・・先輩方が整列している時、部室内で騒いでいたため、正座させ、反省をうながしました!」
と答える。
しかし、横山は、不満そうな顔をして、宮林をにらみつけ、
「なに?正座させて、反省をうながしましただと!正座だけかよ!!」
と言うのだった。
「そ、それは・・・・」と言葉につまる宮林。
新副主将の田所が、横山先輩の意図するところを忖度して、あわてて、「先輩方が帰った後、厳しく指導する予定です!!」と答える。
「なにぃ!!オレたちが帰った後、厳しく指導する予定だと!!それじゃ、おっせぇーんだよ!!おめえら、あめーよ!!だから、1年がしまらねーんだよ!!」
と、夏休みの「引退」以来、2年生部員の後輩たちへの指導不足を懸念していた横山の怒りが爆発する。
しかし、それは、監督から連帯責任のケツバット指導を受けた不満から、後輩たち、特に、2年生・指導部への横山の八つ当たりのようにも見えるのだった。
いつもなら、この種のパワーハラスメント的行為を止めに入る北村も、今日は、「オレは知らん!勝手にやれ!」といった雰囲気で、もくもくと学ランを着て帰る準備をしている。
白ブリーフ一丁で、濃紺のアンシャツからランニングシャツに着替えようとしていた圭悟たちも、チラリと、横山の顔をみるも、納会、卒業式を前に、3年生同士のこれ以上のいざこざは避けたいのか、宮林たちに助け船を出すことはなく、「あーあ、横山のヤツ、やってるよ・・・ったく」といった表情で着替えを続けるのだった。そして、もちろん、こういった場合に、横山に体を張って抗議し、なんやかんや言って、弟分・真司を助ける、「良太兄ちゃん」は、職員室前に正座させられその場にはいなかった。
「宮林!!田所!!外に出ろ!!」
そういうと、横山は、宮林真司の持っていたノックバットを、宮林から強引に取り上げ、それで部室の扉の方を指すのだった。
「は、はい!」
「は、はい!」
少し戸惑いながらも、2年生主将の宮林と副主将の田所は、デカい声で返事をして、横山の指示通り、部室の外に出るのだった。真司たち2人のあとから外に出てきた横山は、部室の扉は開けっ放しのまま、真司たちに、
「そこに並べ!!」
と命令を下す。
そして、二人並んだ宮林と田所を睨みつけながら、
「これから、お前ら二人に、後輩への正しい指導法を教えてやる!!回れ右して、ケツ出せ!!」
と命じるのだった。
正座させられている1年生たちは、目をつむって正座して、事の成り行きを聞いている。久々に戻ってきた3年生の怖い兄貴としての存在のデカさを再認識する。
「はい!」
「はい!」
宮林と田所は、回れ右して、さっき3年生たちがとっていたのと同じ体勢となって、後ろにユニの薄汚れたケツをプリッと突き出すのだった。2年生の二人にとっても、それは久々のケツバット指導だった。
「ネガイシャス!」
「ネガイシャス!」
バン!!
「ありがとうございました!」
バン!!
「ありがとうございました!」
(太朗注:先輩からのケツバットの指導のあとの挨拶には、「ご指導」はつけず、「ありがとうございました!」と言う。)
部室の中にいる2年生部員、そして、正座させられている1年生部員たちにもその音は聞こえていた。宮林と田所のケツを横山先輩のバットが強襲する打音が、耳に飛び込んでくる度に、彼らは、両目をさらにギュッと瞑るようなしぐさをして、つらそうな顔をする。1年生部員たちも、すでに、ケツバットのつらさを知っているのだった。
ガッツゥ〜〜ン!!
ガッツゥ〜〜ン!!
と、ケツから脳天へと突き抜ける重い衝撃に、宮林と田所は、両目をギュッとつむり、奥歯をグイとくいしばって我慢する。そして、ケツがジンジン、ズキズキと焼けるように痛くなって来る。先輩による久々の本気度100パーセントのケツバットに、顔をゆがめてつらそうな表情をする宮林。グッと下唇をかみしめて、悔しそうな表情をする田所。
「これが後輩への正しい指導法だ!!わかったか!!」
「はい!!」
「はい!!」
ケツのジンジンとする痛みはだんだんと増幅し、ケツに焼きたての餅が張り付いたように腫れぼったかった。しかし、先輩の前で、恨み言や、泣き言は言えない。ただグッと耐えるのみだ。もちろん、横山は、宮林と田所にケツをさすり、感傷に浸っている暇など与えなかった。
「わかったら、すぐに指導しろ!!」
「はい!!」
「はい!!」
先輩の指示に対する動きは田所の方が早かった。
少し動いただけで、スラパンの中の腫れぼったいケツがズキッと痛む。しかし、機敏に動いて、部室へ入ると、
「1年全員!!部室前に整列!!」
と命令する。
そして、驚いたような表情でお互いの顔を見合わせる1年生たちに、
「オラァ!!おめえら早くしろ!!整列だ!!」
とダメ出しをするのだった。
怒鳴るだけでもケツがズキリと痛む。しかし、その試練にグッと耐えて、今度は、後輩の指導に当たらなければならない。2年生の役回りはツライのだ。
後輩たちが聞いている中で受けたケツバット指導。先輩の面目がまるつぶれになるほどの屈辱だ。2年生・副主将の田所は、そんなつぶれかけた2年生の面目をどうにか挽回しようと、己の前に整列した1年生たちをにらみつけながら、ノックバットを持って彼らの前を往ったり来たりしている。
3年生の横山先輩も、彼らの指導が十分かを見張るように、その場で腕組みして、宮林と田所、そして、1年生たちを睨みつけているのだった。
気がつくと、横山先輩が、宮林のすぐとなりに来て立っている。宮林は、田所の素早い行動に押され気味で、ただ様子を見守るだけで何もできないでいたのだった。
横山は、さっきの辛辣さがウソのような、やさしい兄貴臭い声色で、
「ビビるな・・・こういうときは、腕組みして、後輩たちのこと睨みつけてろ!」
と、宮林にだけ聞こえるように、ささやくのだった。
温和な性格の宮林主将も、やっと気が付いたのか、副主将の田所に恥はかかせまいと、横山が出した助け舟に乗り、どうにか腕組みをして、1年生たちを睨みつける。
その様子に満足したのか、横山先輩は、「よし・・・あとは任せるぞ・・・」と言い、さっき宮林のケツを打ち据えたノックバットを無造作に宮林に返すと、部室の中へと戻っていくのだった。
もちろん、前主将・北村が、このコンビがベストと推薦し、荒井監督、そして、横山をはじめとする3年生部員全員によって承認された「主将・宮林、副主将・田所」のコンビだ。副主将・田所も、1年生たちが整列している前で、主将・宮林に恥をかかせるようなことはしなかった。
「おめえら、最近たるんでんだよ!!気合を入れ直してやる!!ケツバットだ!!回れ右してケツだせ!!」
と、1年生部員たちに命令する。神妙な面持ちの1年生部員たちが、次々に「はい!」と返事をしながら、回れ右して、先輩たちがやっていたように、万歳して前傾姿勢となり、ケツを後ろへ突き出すのだった。
1年生全員のケツが突き出されたのを見届けると、田所は、1年生たちに聞こえるように、
「よし!!宮林!!頼むぞ!!」
と言って、ケツバット指導のバトンを主将の宮林に渡すのだった。
それを聞いた1年生たちは、「えっ・・・宮林さんの指導って、もしかして、初めてかも・・・」と思うのだった。
その年の1年生の人数は、温和でやさしい兄貴といった風貌の宮林が、1年生のクラスを丁寧に回って勧誘しただけあって、当初は25名の部員が集まり、3学期においては、12名が部員として残っており、進学校の硬式野球部としては、「豊作」の方であった。
自分の前に一斉に突き出された、主将の指導を願い出る1年生部員たちのユニフォームのケツ、ケツ、ケツ・・・。それを眺めながら、主将・宮林は、大きく深呼吸する。そして、列の一番端の1年生のケツの横でノックバットを構えると、心を鬼にして、「いくぞ!!」と厳しく声をかける。
1年生の覚悟を決めた「お願いします!」の声が聞こえるが早いか、宮林は、その1年生のユニフォームのケツポケットの下あたりに狙いを定め、ケツペタを下から上に打ち上げるようにして、
バン!!
と、後輩のケツを叩くのであった。
「ありがとうございました!!」
「よし!次!いくぞ!!」
「お願いします!」
バン!!
「ありがとうございました!!」
「よし!次!」
「お願いします!」
バン!!
「ありがとうございました!!」
次々と後輩たちのケツに気合を入れていく宮林。宮林の後ろからは、ケツを叩かれた1年生部員たちの「いてぇ・・・」というなんともつらそうな声が聞こえてくる。「オラァ!!鈴木!!ケツなでてんじゃねぇ!!そのくらい我慢しろ!!」と指導する田所の声も耳に飛び込んでくる。
そんな声を後ろに聞きながら、新主将・宮林は、1年生たちのケツを、慎重に、しかし、決して手加減することなく、次々とノックバットで打ち据えていく。そして、12番目のユニのケツの前で、ノックバットを構え、
「よし!ラスト!いくぞ!!」
と気合を入れなおす。
最後のケツに狙いを定めた宮林の耳に、1年生の「お願いします!」の声が聞こえる。そして、宮林は、
バン!!
と、最後のケツにも厳しいケツバット指導を入れる。
「ありがとうございました!!」
その声を聞いた時、宮林は、「ふぅ・・・終わった・・・」と、全身から力が抜けていくような感覚を味わう。しかし、後ろでは、田所が、「いいか!!これからはビシビシしごくからな!!覚悟しとけ!!」と締めの指導に余念がない。それを聞いた宮林は、自分にもピシッと気合を入れなおすと、ノックバットを前に持って、仁王立ちになり、1年生たちを睨みつけるように見渡すのだった。
その日、良太兄ちゃんのビール持ち込み事件をきっかけに、計らずも、宮林真司は、主将として、男として、一回り成長したのであった。
< 第七節のボツネタを読む >
硬式野球部における正座は、一般の正座とは一味も二味も違い、時には、バットをひざのところに挟んで正座させられるなど、少々キツイ指導が行われることもある。
その日、荒井監督が丸山良太に科した正座も良太が一生忘れ得ないようなユニークなものであった。しかし、これも、男子進学校出身者にしばしばありがちな、調子に乗りすぎて、独りよがりなオレ様状態となり、大学や社会でとんでもない非常識なことを仕出かしてしまうかもしれない傾向を修正するための、親心からであった。
「あーースネがいってぇーーー、ケースと瓶が喰い込んでくる・・・監督も陰険だよなぁ・・・」
そんなことをブツブツいいながら、職員室の前で、野球のユニフォーム姿のまま正座させられている丸山良太。しかし、それはただの正座ではなかった。
「正座中、おまえが居眠りして、ビールを盗まれでもしたら、おまえのオヤジさんに申し訳たたねぇーからな・・・ビールケースの上にでも正座してろ!」
と命令して、荒井監督が職員室の中に入っていったきり、小一時間が経とうとしている。
ビールケースの上での正座というサディスティックな責苦が、丸山良太の向う脛に、容赦のない試練を与える。脚の痺れも半端なく、それを和らげようとちょっとケツを動かしただけで、脛に激痛が走る。それはもうケツの痛みを忘れるほどの鬼の辛さだった。
時々、教師たちが、ニヤニヤしながら、「なにやらかしたんだ?」とからかうように言いながら、良太の前を通り過ぎていく。
「ったく、荒井監督まだなのかなぁ・・・あっ、やっべぇ・・・山村だ・・・・叱られるかな・・・」
良太のクラスの担任で、英語担当の山村先生が、職員室から出てきて、良太の前にやってくる。
「よぉ!!丸山、来週、卒業式だってのに、またまた懲りずにやらかしたらしいな!!」
「先生・・・助けてくださいよ・・・荒井監督、鬼っすよ・・・」
「ワハハハ・・・悪いな、オレは、部活のことには口を挟まん主義でな。」
「そ、そんな・・・冷たいなぁ・・・先生、卒業式までは、まだオレの担任なんでしょう?」
「ワハハハ・・・その通りだが、それを言うなら、荒井監督は、卒業式までは、お前の監督だ。お前みたいな調子に乗りすぎのエリートは、今のうちに、荒井監督から、いっぱい叱られとけ!そのうち、叱られたくても、誰も叱ってくれない時がくるからな。」
「えっ?エリート?オレ、エリートなんかじゃないっスよ・・・」
「なにいってんだ。難関国立大に現役合格したお前が、エリートじゃなくてどうする。」
「は、はい・・・」
「ワハハハ・・・まあ、どっちでもいい・・・がんばれや!卒業式で会おう!!」
そう言うと、山村先生は、廊下の先にある事務室の方へ行ってしまうのだった。
「は、はい・・・失礼します・・・」
と、元気なく挨拶する良太。
「あっ、やべぇ・・・腹もいたくなってきた・・・オヤジ、怒るだろうな・・・あーーどうしよう・・・」
良太は、ガキの頃から、やんちゃをしでかし、オヤジからお仕置きを受けるかもしれないと考えると、いつも腹が痛くなる。良太は、下腹に焼石を入れられたような痛みを忘れようとして、何か別のことを考えようとする。しかし、やはり、怒り心頭のオヤジの顔を思い出してしまうのだった。
そして、今度は、廊下の向こうから、さっきまで同じチームで野球をやっていた数学の川上一人先生が、良太の方へ近づいてくる。右手にはケツ叩き用の布団叩きを持って、それをビシッ!ビシッ!と空振りしながら、歩いてくるのだった。
「あっ、やべぇ・・・こんな時に限って、川上が・・・しかも、布団叩き持ってる・・・」
いつも、ついつい調子こいて、やらかしてしまう丸山良太にとって、職員室前の廊下は、高校一年生の時からの、お馴染みの反省タイムスポットだったが、川上先生が例の布団叩きを持って通ると、いつもその布団叩きで、良太の丸刈り頭をバシッと叩いていく。
やや伸びてきたとはいえ、まだまだ短髪の良太は、条件反射なのだろうか、あの布団叩きをみると、ケツだけでなく、頭のてっぺんもムズムズしてくるのだった。
「おお、丸山!!こんなところで正座してどした?」
と、右手に持った布団叩きでビュン!ビュン!と空を切りながら、にやけた顔で良太に聞いてくる。
「せ、先生・・・そんなに布団叩き、ビュンビュン振り回さないでくださいよ・・・」
その布団叩きで、3年間、何回、ケツと頭を叩かれたことか・・・。良太は思わずすくむのだった。
「おお、悪かったな・・・ちょっと部活の連中のケツを叩いてきたところだ!文化系クラブもちょっとスリルがあった方がいいだろう!ワハハハ!」
「もしかして、圭悟の弟のケツとか?」
と、いたずらっぽい笑みを顔に浮かべる良太。
「圭悟の弟?おお、中村大悟か!あいつは、ああみえて、なかなか賢いぞ。今回は、オレが出した数学パズル問題パーフェクトで、一人だけ、ケツ叩きなしだった。」
「そ、そうなんですか・・・意外だなぁ・・・あいつ、結構、頭いいんスね・・・。」
「ところでおまえ、なんでここで正座してるんだ?しかも・・・ビールケースだろ・・・下の黄色いヤツ・・・」
と質問に答えてない良太に同じ質問を繰り返す川上先生。部活指導のため情報視聴覚教室にいたため、試合の後の「騒動」のことは知らないようだった。
「は、はい・・・理由は、これっス・・・」
と言いながら、良太は顔を赤らめながら、己が正座しているビールケースを指さしながら、ビール持ち込みのことを川上先生に話すのだった。
「ワハハハ!!それは、やらかしたな!!傑作、傑作、実におまえらしい!」
「そんな笑わないでくださいよ・・・ほんの軽いジョークのつもりだったのに・・・監督、マジで怒るんですから、もう参りましたよ・・・・」
「まあ、オレなら、これでケツ100叩きのあと、そのビールもらっていたかもしれんがな!!ワハハハ!!」
「ですよね!普通、そうですよね!!荒井監督、ちょっと過剰反応ッスよね・・・」
それを聞いて、川上先生の顔から笑みが消える。そして、丸山の前にしゃがむと、声をひそめて、
「ばかやろう・・・いまのは冗談だが・・・おまえ、知らなかったのか。だったら、教えといてやる。荒井先生は、県立商業時代、エースピッチャーで、甲子園出場は確実と言われていたんだが、高2の春、ちょうど今の時期だな、先輩たちが飲酒事件を起こして、その連帯責任で、県商が選抜出場辞退、さらに対外試合出場禁止になり、甲子園行きをまるまる棒に振ったんだ。高校は別だったが、オレが高1の時だったから、あの事件は、よく覚えてるよ・・・」
と、荒井先生の球児時代のエピソードを明かすのだった。
「えっ・・・そ、そんなこと、知りませんでした・・・」
「おまえがまだガキの頃の話だから、知らなくて当然だがな・・・まあ、そんなとこだ・・・」
正座させられてもまだまだ懲りないやんちゃ坊主のような表情をしていた丸山良太が、急に神妙な顔つきになりしょげ返るのだった。
「や、やっべぇ・・・また腹がいたくなってきた・・・」
「おまえ、大丈夫か・・・?」
「せ、先生、助けてください・・・べ、便所、急に行きたくなりました・・・・」
「よ、よし・・・いま、荒井先生、呼んできてやるから、ちょっと我慢してろ・・・おまえ、ここで漏らすなよ!!」
そう言って、職員室の中へと入って行く川上先生。そして、ほどなく出てきた荒井監督。
「せ、先生・・・・急に便所いきたくなって・・・」
「ったく、でっかい方か・・・」
「は、はい・・・でっかい方・・・せ、先生、脚がしびれて、ひとりじゃ立てません・・・」
「ったく、おまえは、世話の焼けるヤツだ!!」
荒井監督と川上先生の肩を借りて、どうにか、ビールケースからおりて、立つことができる丸山良太。
「ちょ、ちょっと、やばいっす・・・」
と言って、ユニのケツを右手押さえて、足を引きずりながら、トイレの方へ急ぐ丸山良太。
そのちょっと(;´д`)トホホな後ろ姿を見ながら、荒井監督と川上先生は、お互い顔を見合わせて苦笑いするのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・
正座を解かれ、丸山良太は、荒井監督とともに、夕暮れの中、県立中央公園を抜けて、良太のオヤジの酒屋がある商店街への道を行くのだった。自転車を押す荒井監督の背中をみながら、トボトボと元気なく歩く丸山良太。まだ野球のユニフォームのまま、学ランが丸め込まれて入っている野球部のエナメルバッグを肩に下げていた。自転車の荷台には、良太が午前中、学校に持ち込み、さっきまでその上で正座していたビールケースが載せてあった。
川上先生から、荒井監督が高校時代に巻き込まれた飲酒事件のことを聞かされて、凹んでしょげ返る丸山良太。
「あー、もうオレって最低のヤツだよな・・・荒井監督が高校の時、飲酒事件に巻き込まれていたなんて、知らなかったもんな・・・監督にどう謝れば・・・よしっ!」
丸山良太は、突然、速足で歩くと、荒井監督の自転車の前に立って、そして、いきなりその場に、土下座したかと思うと、両手と頭を地べたにつけて、
「監督さん!!自分が軽率でした!!申し訳ありませんでした!」
とデカい声で、荒井監督に詫び入れするのだった。
驚いたような顔をする荒井監督。まわりの通行人たちも、振り返り、荒井監督のこと、そして、丸山良太のことをジロジロ眺めている。
しばらくは無言のまま、土下座した良太のことを見下ろすようにしていた荒井監督は、何かを察したのか、自転車のスタンドを下げて停めると、良太の前にしゃがんで、
「お前の気持ちはわかったから、もう頭をあげて立つんだ・・・」
「えっ・・・じゃあ、監督、オレのこと許してくれるんですか?」
「ああ、もちろんだ・・・いいか、これだけは忘れるな。大学が一流であればあるほど、誘惑は向うからやってくる。大学生になったら、それに足元をすくわれないように注意するんだ。特に野郎は、酒と女には要注意だからな・・・」
「は、はい!!!わかりました!!」
「よし!早く立て!」
「はい!!じゃあ、ここからは自分一人で・・・」
「ばかもん!調子に乗るな!!土下座するくらいの勇気があるなら、オヤジくらい大したことねーだろ!!」
「えーー、やっぱダメですか・・・もう、うちのオヤジ、めちゃくちゃなんですから・・・」
「ダメだ!!オレと一緒に行って、オヤジさんにも謝るんだ!!」
「あーあ・・・やっぱダメか・・・オヤジ、怒り狂うだろうな・・・」
そんなことをつぶやきながら、やっぱりまだまだ懲りてない丸山良太は、再び、自転車を押す荒井監督の後を、トボトボとついていくのだった。
「やべぇ・・・とうちゃん、すげぇ機嫌が悪そうな顔してる・・・」
「おお、あの人が丸山のオヤジさんか?」
「そ、そうです・・・やくざみたいですよね・・・監督・・・先に行ってください・・・ボクはあとから・・・」
「ワハハハ!!やくざはよかったな・・・オレにとっては、懐かしい感じがする人だよ、おまえのオヤジさん。」
「えっ、なつかしいっすか?うちのオヤジが・・・」
「フフフ・・・オレも人が悪いな・・・実は、昔、OB会でおまえのオヤジをみかけたことがあるんだな・・・あの時は、こわそうな先輩だと思って近寄らなかったが、あの人が丸山のオヤジさんだったとはな・・・こりゃ楽しみだ・・・」
丸山良太のいつにないおびえた様子に、荒井監督はほくそ笑みながら、そう思うのだった。
そんな荒井監督の後ろに隠れるように立ち、良太は、荒井監督を先に店の中へいかせようとするのだった。
荒井監督は、「丸山酒屋」の前に自転車をとめ、
「こんにちは。県立一高の荒井です。はじめまして。」
と、いつものよくとおる声で挨拶しながら、店の中に入り、かぶっていた野球帽をとって良太のオヤジさんにペコリと一礼する。丸山良太も、荒井監督の背に隠れるようにして、実家の店の中へとこそこそと入っていくのだった。
店のレジのところでなにやら難しい顔をしていた良太の父親・丸山良一が、顔を上げて、荒井監督のことをしげしげと眺める。
「はあ・・・いらぁっしゃい・・・県立一高のあらい?・・・おっといけねぇ、良太の学校の部活の先生じゃないですか!!こ、こりゃどうも、失礼しました。うちのバカ息子がいつもお世話になってます!」
良一も椅子から立ち上がり、荒井監督に向かって、深々と頭を下げるのだった。
「い、いえ・・・今回は野球部納会の飲み物のことでお世話になっております。」
「あっ、ああ、そうでした・・・ご注文ありがとうございました。なにかお届けの品に不行き届きがございましたでしょうか・・・?でしたら、すぐに店の者に言って・・・」
荒井監督の初めての訪問に、良太のオヤジは、ややいぶかしげな顔をしながら、荒井監督の顔をいかにも商人らしい視線でのぞき込むように見るのだった。
その時、
「た、ただいま・・・とうちゃん・・・」
と、荒井監督のうしろで小声でささやくように言う良太。
「な、なんだ・・・良太じゃねぇか・・・なんでこそこそ隠れてるんだ?・・・あっ!!その顔は・・・おまえ・・・学校で何か仕出かしやがったな!!だから先生と一緒に!!」
「と、とうちゃん・・・いきなり、そんなこわい声出さなくたっていいじゃん・・・」
と、再び、荒井監督の背中の影に隠れようとする良太。良太と良太のオヤジに挟まれて突っ立たままの荒井監督は、いつもは調子に乗って話を盛る傾向が強い丸山良太も、父親に関することだけは大げさなことを言ってはいなかったのだと悟り、内心、おかしくてたまらなかった。
「コラ!良太!!こそこそ隠れてねぇーで、とうちゃんに報告したいことがあるなら、こっちへ出てきて、堂々と言うんだ!!」
「と、とうちゃん・・・い、いきなりそんなにデカい声でまくしたてなくたっていいだろ・・・・」
「よし!!でてきやがらねぇな・・・だったら、こっちから・・・おまえの首根っこを・・・」
そう言いながら、荒井監督の後ろにいる良太をいまにも取り押さえようとする勢いで、レジ台の後ろから身を乗り出してくる良一オヤジ。
瞬間湯沸かし器のように急に興奮し始めた丸山のオヤジをなだめるように、荒井監督が
「お、おとうさん、まあ、ここは、おちついて、おすわりになってください・・・」
と言うのだった。
荒井監督のとりなしで、椅子に座ったものの、
「良太!!なに仕出かしやがったんだ!!まさか、卒業が取り消しになったんじゃねぇーだろうな!?留年なんてしやがったら、真っ裸にしてこの家から叩きだしてやるからな!!さあ早く言ってみろ!!」
と、まだまだおさまらないといった感じの良一オヤジ。
「さあ、丸山、おまえからお父さんに話すか?」
と、自分の背中にピッタリとくっつくようにしている良太に、優しい声で問いかける荒井監督。
「か、監督さんから・・・お願いします・・・」
と良太は、荒井監督に甘えるように言うのだった。
「ったく、なさけねーヤツだ!!もう18だってのに、自分でいえねーのか、このバカ息子は!!」
「・・・じ、実は、良太君がビール・1ケースを学校に持ってきてくれまして・・・ただ、野球部の納会は、学校の行事に準ずる扱いでして、お酒はちょっと・・・ですので、お返しに伺いました。」
「こいつ!!店からビール、持ち出しやがったのか!?」
「ち、ちがうよ・・・と、とうちゃん・・・おじちゃんからもらった合格祝いからオレが・・・」
「なにぃ!!合格祝いにもう手をつけやがったのか!!それに、高校球児が、酒飲んでいいと思ってんのか!!」
「ち、ちがうよ・・・監督さんに飲んでもらおうと思って・・・」
「馬鹿野郎!!調子いいこといいやがって!!おめえも、ちゃっかり飲むつもりだったんだろう!!」
「と、とうちゃん・・・う、うそじゃないよ・・・もう勝手に店のもの持ち出さないからゆるしてくれよ・・・」
「そういう問題じゃねぇ!!高校球児のおまえが、学校で酒飲んだら、どんだけ多くの人の迷惑になるのか、考えもしなかったのか!!この馬鹿野郎!!」
自分の前で、自分の顔につばを飛ばしながら、すごい権幕で怒りだしたオヤジと、後ろから聞こえてくる息子のとんでもない言い訳・・・「なんだよ・・・オレに酒を飲ませたかっただと・・・コイツ、口からでまかせいいやがって・・・ケツバット一発と正座だけじゃ足りなかったか・・・」と思いながら、あっけにとられている荒井監督。
「と、とうちゃん・・・反省してるからゆるしてくれよ・・・」
「なにが、反省してるからゆるしてくれよ、だ!!オラァ!!男だったら、甘ったれた声出してねぇで、こっちへきやがれ!!」
そういったが早いか、今度は荒井監督にとめる暇も与えず、良太のオヤジは、立ち上がり、レジ台に身を乗り出すと、ヌッと右手を伸ばし、良太の左耳をギュッとつまんで引っ張り上げるのだった。
「いっ、いってぇーーー、耳がちぎれちゃうよーーーす、すごいいたいから・・・やめて・・・」
「オラァッ!!こっちへ来いって言ってんのが、わからねーのか!!」
ギュゥーーー!!
「ぎゃぁーーーいてぇーーーーとうちゃん、ゆ、ゆるしてぇーーー」
オヤジに耳を引っ張られた良太は、荒井監督を押しのけるようにして、レジ台の上に仰向けになるようにのってしまうのだった。
さすがにあわてた荒井監督は、
「お、おとうさん、ま、まあ、おちついて、あまり怒らないでやってください。良太君には、学校で、私がしっかり指導しましたから・・・」
と、良太のオヤジをなだめるように言うのだった。
「ほぉ・・・指導ですかい、先生・・・ずいぶんと懐かしい言葉ですねぇ・・・」
良太オヤジのその反応に、「あっ、しまった・・・」と思う荒井監督。しかし、荒井監督と同じ県立商業高校・硬式野球部OBでもある良太のオヤジは、なだめられるどころか、「指導」という言葉に鋭敏に反応したのであった。県立商業高校・硬式野球部において、「指導」とは、「ケツバット」を意味する隠語だったのである。
「いっいてぇー、みみはなしてよ・・・そうだよ、とうちゃん、監督に叱られたし、正座もして、しっかり反省したからさ・・・」
「よぉーし!!しっかり反省した野郎のケツかどうか、とうちゃんがみてやる!!」
「あっあーー、とうちゃん、やめてよ・・・監督の前でやめてよ・・・みんなもみてるよ・・・」
時はまさに夕方。商店街においては、奥様方のショッピングタイムも佳境を迎えようとしている。店から聞こえてくる店主の怒鳴り声に気がつき、「ちょっと・・・なにがあったのかしら?」と、店をのぞく買い物客も多かった。そんな中、良太のオヤジは、良太の耳つまみをやめると、今度は良太の首根っこをつかみ、強引に、レジ台の上に、良太の上体をかがませるのだった。
「と、とうちゃん、しっかり反省したっていってるだろう・・・あっあぁ・・・や、やめて・・・みんな、みてるから・・・」
良太は、オヤジのバカ力で、あれよあれよという間に、店の入り口、すなわち、商店街の通りの方に野球ユニのケツを向けて、レジ台の上に、強引にベンド・オーバーさせられてしまっていた。
カチャカチャ・・・
「あっあぁ・・・ほんと、そ、それだけは、やめて・・・とうちゃん・・・」
「馬鹿野郎!!ズボンとスラパンはいてたんじゃ、ケツがみれねぇーだろが!!」
さすがに野球部出身だけのことはある。良太のオヤジは、カチャカチャと手慣れた風に、良太のユニのズボンのベルトを緩めると、前のボタンをササっとはずし、良太のユニズボンをガバッと一気に膝当たりまでおろしてしまう。
「あっあぁ・・・ま、マジやめて・・・とうちゃん、それ以上は、かんべんして・・・」
良太は、丸出しになったスライディング・パンツを右手で必死に押さえながら、生のおケツが商店街の通りに向けて丸出しのならぬよう、最後の抵抗を試みるのだった。しかしそれは無駄な抵抗だった。
「ダメだ!!とうちゃんにケツみせてみろ!!」
そういうと、良太のオヤジは、右手を良太の首根っこから放し、今度は、その手で、抵抗する良太の両手を、右、左と、次々につかみ、良太の背中のところにギュッとおさえつけてしまうのだった。首根っこを放された良太は、押さえつけられているレジ台から必死で上半身を起こそうとして、最後の抵抗を試みる。しかし、オヤジの右手は、良太の両手首をしっかりグリップし、さらに、良太の背中をレジ台にしっかりプッシュして、良太の上半身をレジ台の上に完全にねじ伏せていたのである。
良太は、もう、力なく、
「と、とうちゃん・・・・反省してます・・・かんべんして・・・」
と言うだけであった。
「どれどれ、とうちゃんが、しっかりとみてやるぞ、しっかり反省したか・・・」
そういいながら、良太のオヤジは、左手で、良太のスラパンの腰ゴムをムンズとつかむと、それを今度は、やけにゆっくりとめくるように、ひざの上あたりまで、おろすのだった。
良太は、レジ台の上におさえつけながら、ケツが少しずつ、ひんやりしてくるのを感じる。それと同時に、商店街通りの喧騒が聞こえてくる。
「あーー、ケツが丸見え・・・もうサイテーの展開・・・」
そんな良太の「期待」は裏切られなかった。たまたま運よく、もとい、運悪く、下校途中のやんちゃそうな小学生の男の子たちが数人、店の前を通りかかり、そして、店の中の様子に気がついてしまったのだった!!
しかし、彼らは、単なる「通りすがり」の小学生たちではなかった。彼らはいつも、商店街通りのあちこちで、もちろん、「丸山酒屋」の店の前でも「野球ごっこ」で遊んでいて、良太のオヤジからは、「コラァ!!ここじゃ危ないぞ!!公園行って遊べ!!」と怒鳴られ、野球ユニ姿の良太からは、「コラァ!!ここは野球するとこじゃねーぞ!!」と注意されることもしばしばで、いわば、顔見知りのガキどもなのであった。
もちろん、そのやんちゃ坊主たちは、酒屋のおっかねーおじさんは、今日は自分たちのことを怒鳴らないとすぐにわかったのか、店の前から立ち去ろうとはしない。彼らは、かわいい目をらんらんと輝かせて、店の中の様子を興味津々に見物し始めているのだった。
「あっ!野球部のお兄ちゃん、スラパン、おろされちゃった!!」
「えっ!スラパンって?」
「おまえ、しらないのかよ。スライディング・パンツ。野球やるときはくの!!」
「し、しってるよ!!そんくらい・・・ボクの兄ちゃんだって、野球やるとき、はいてるもん!!」
「あっ!!野球部のお兄ちゃんのおしりがまるだしだ!!」
「あっ!!ほんとだ!!」
「おっもしれーーー、キャハハハ!!!」
・・・・・・・・・・・・・
「ちっくょー、いつも店の前でキャッチボールして遊んでるヤツらだな・・・バカにしやがって・・・」
「どれどれ、ケツみせてみろ!!」
「と、とうちゃん、かんべんしてよ・・・小学生にもバカにされてるよ・・・」
「ばかもん!!」
バッチィ〜〜ン!!
良太オヤジの左手が、良太のケツのど真ん中に炸裂する。それは左手でも十分に威力があり、一発で、尻もみじクッキリのスタンプ力だった。
「バカにされるようなことするお前がわるいんだろう!!男だったらグズグズいってねぇで、堂々とケツ出しとけ!!」
べッチィ〜〜ン!!
「いっ、いてぇよーーーグスン・・・」
思わず目をつむる良太。しかし、オヤジに両手をしっかりおさえつけられ、ケツをさすることはできない。強烈な平手打ち2発目の衝撃で、良太の股間にぶら下がるタマタマが、哀しげにユラユラと振動している・・・。嗚呼、いてぇーのは、良太のケツだろうか・・・はたまた、良太の男のプライドだろうか・・・。
「ちくしょーーーーオレ、小学生たちの、いい、わらいもんじゃんか・・・」
・・・・・・・・・・・・・
「あっ!!野球部のお兄ちゃん、おしりたたかれてる!!」
「キャハハハ!!おっもしれーーー!!」
店をのぞいている小学生・男子たちから、笑い声があがる。
・・・・・・・・・・・・・
「と、とうちゃん・・・ほんと、反省してます・・・ゆるしてください・・・グスン・・・・」
良太は、小学生たちの笑い声を聞いて、真っ赤な顔なり、もう半泣きの声で、オヤジに懇願するのだった。しかし、その懇願は、オヤジには届かなかった。
「あっ!!おまえ、スラパンにウンコくっつけやがって!!!またしっかりケツふいてねぇな!!」
バッチィ〜〜ン!!
「い、いてぇーーも、もう、そんなこと、どうでもいいだろ・・・グスン!!」
「ばかやろう!!どうでもいいことがあるか!!野球で身につけるもんは、普段から清潔に手入れしとけって、いつも口を酸っぱくして言ってんだろうが!!おまえは、ウンコしたあと、ケツ、よくふかねーからこうなるんだ!!」
バッチィ〜〜ン!!
「いてぇーーー、ごめんなさい・・・かんべんしてくれよ・・・とうちゃん・・・こんどからしっかりケツふくよ・・・」
・・・・・・・・・・・・・
「あっ!またおしりたたかれた!!おっもしれーーーキャハハハ!!!」
「バッチィ〜〜ンって!!すごい音、キャハハハ!!!」
そして、小学生たちは、「ウンコ」という言葉にも敏感だった・・・。
「スラパンにウンコついてるって!!キャハハハ!!!」
「きったねーーー、キャハハハ!!」
「くっせーーー、キャハハハ!!!」
・・・・・・・・・・・・・
丸山父子の様子を、店の中で立ちつくしてみている荒井監督。丸山家の教育方針に、感銘をうけたのか、それとも、ただただ呆気にとられているだけなのか・・・荒井監督は、しばらく、ジッとして二人の様子をみていたのだが、うしろの男子・小学生たちが、次第にエキサイトしてきていることがわかったので、くるりと向きをかえると、店の入り口の方へと行き、そこの群がっていた小学生たちを睨みつけるのだった。
そして、
「コラァ!!のぞくんじゃない!!」
と一喝。男子高校生たちには「やさしい兄貴」にみえる荒井監督も、小学生には、鬼のように怖く迫力のある大人にみえたのか、
「や、やばい!!逃げろ!!」
と、誰かが言うがはやいか、店の前で見物の小学生たちは、口々に、
「やばい!!逃げろ!!」
「やばい!!逃げろ!!」
と言いながら、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていくのだった。
「ったく・・・やんちゃ坊主どもめ・・・あれじゃ、丸山もかわいそうだよな・・・」
とつぶやきながら、開店時間中は開けっ放しになっている店の引き戸を閉めるのだった。
一方、丸山オヤジは、そんなことなど一切気にせず、息子のケツを観察し始めていた。そして、戻ってきた荒井監督に、
「せんせーー、これじゃ、いけませんや・・・この馬鹿野郎のケツ、全然、反省しているようにはみえませんぜ・・・せんせー、うちのバカ息子のこと、しっかり指導して下さったんですか?」
と、ズケズケと言うのだった。
丸山オヤジのその失礼な物言いに、ちょっとムッとして、
「そ、それは・・・県立一高の野球部には、県立一高の野球部の指導法というものがありますので・・・」
と言ったものの、そこから先は口ごもる荒井監督。
「ざっくばらんに言わせていただくとねぇ、ケツバットに県立一高も二高もないでしょう。私にいわせりゃ、先生、クソ生意気なガキのケツに一高も二高もないんだ。ケツバットすんなら、ビシッと指導して厳しいとこみせねーと締まらねえ。こんなピンク色の痕しか残らねーケツバットなんぞ、ケツバットじゃないですよ・・・これじゃ、ケツなでなでバットだ。」
「は、はあ??」
「よし!!良太!!!とうちゃんが、指導し直してやる!!ちょっと奥へきやがれ!!」
そういうと、良太のオヤジは、再び、良太の耳をギュッとつかむと、店の裏の、倉庫との間にある、中庭のようになって広くなっている場所へと、良太をひきずっていこうとするのだった。
「と、とうちゃん・・・ケツバットだけはかんべんしてーーグスン・・・・」
野球のユニズボンとスラパンを膝あたりまでおろされたまま、店の裏へと引っ張られていく良太は、すでに両頬に涙の筋をこしらえていた。
「お、おとうさん・・・い、いや、先輩!!ちょっと待ってください!!私の指導不足は認めますので、どうかここは、私に免じて、良太君をゆるしてやってください。良太君も、もう十分反省しているようですから・・・」
荒井監督のその言葉を聞いて、良太のオヤジは、おどろいたように振り向き、荒井監督の方をみるのだった。
「せ、せんぱい・・・?」
「は、はい。申し遅れました!!自分は、24期卒部の荒井元親です!!先輩!!お久しぶりです。数年前、硬式OB会でお目にかかりました!!」
荒井監督は、ピシリと姿勢をただし、再び、良太のオヤジに一礼するのだった。
「あらい・・・もとちか・・・あっ!!・・・せ、先生、あんたが、あの甲子園に行きそこねた荒井君だったのか!!」
「と、とうちゃん・・・そんなにはっきり言わなくたって・・・」
「うるせぇ!!おめえは、黙ってろ!!」
オヤジは再び、良太の耳をギュウ〜〜〜とひっぱる!!
「ぎゃぁ!いてーーーー」
「は、はい・・・ま、まあ・・・そんなところです・・・・」
荒井監督は、県立商業高校・硬式野球部の大先輩の前で、頬をわずかに染めて、かしこまってしまうのだった。
「荒井君、いや、先生!!それなら私は、ますますコイツを許すわけにはいかねぇーんだ!!最近、こいつはねー、先生、国立のなんとかホーケー大学に現役合格したとかいって、浮かれまくって、天狗になっていやがるんですよ!!だから、先生の気持ちも考えずに、学校にビール持ち込んだりしやがるんだ!!今日こそは、私のバットで、こいつの根性、みっちり叩き直してやりますよ!!ちょうどいい、先生が証人だ!!コイツの根性みっちり叩き直すところ、みていってやってください!!お願いします!!さあ、良太、こっちへこい!!」
「あっあー、とうちゃん、耳、ひっぱらないでよ・・・」
オヤジに耳をギュッと引っ張られて、店の奥へと連れていかれる良太。野球のユニズボンとスラパンは膝まで下げたまま、よちよち歩きで、オヤジに引っ張られていく・・・。
「せ、先輩・・・ちょ、ちょっと待ってください・・・・」
どうにか良太のオヤジをなだめようとする荒井監督だったが、強引な良太のオヤジに、なすすべもなく、荒井監督自身もまるで良太のオヤジに引っ張られるように店の奥の方へとついていくのだった。
・・・・・・・・・・・・・
その場所は、良太にとって、ガキの頃から、お仕置きをされる場所だった。小学生までは、オヤジのひざ上で尻を容赦なくひっぱたかれ、中学生になってからは、やんちゃの度合いにより、オヤジからケツバットをやられることもしばしばであった。どちらも、オヤジのルールはいたって簡単。ズボンとパンツはどちらもおろし、おケツは、生まれたままのスッポンポンであった。
<プチスペシャル02 良太と真司 幼馴染秘話 も参考にしてください。>
「さあ、わかっているな、良太。ズボンとスラパンを脱いだら、床の間から、オレのバットを持ってくるんだ!!」
「とうちゃん・・・反省しているから・・・ケツバットだけはゆるしてよ・・・ウソついてないよ・・・反省しているから・・・」
「ああ、わかってる、だが、もっと反省しないとダメだ!!さあ、ぐずぐずいってねーで、覚悟決めて、バットもってこい!!」
「は、はい・・・」
良太はオヤジに対する「助命嘆願」ならぬ「助ケツ嘆願」をあきあらめたのか、肩を落としてトボトボと、母屋の方へ入っていくのだった。ズボンとスラパンを脱いで、下はクツとソックスだけ、そして、上は、ユニとアンダーシャツ。長いアンダーシャツの下からプリンとその双丘をのぞかせる良太の桃のようなケツには、さっき、荒井監督から受けたケツバットの痕が、うっすらピンク色に残っていた。
それをみていた荒井監督の心臓は、バクバクと高鳴っていた。良太のオヤジさんが口走った「床の間」という言葉に、思わず、興奮していたのだった・・・。
そして、しばらくすると、良太が赤色のノックバットを手に持って戻ってくる。そして、それを両手で恭しく持って、仁王立ちになっているオヤジのその真ん前に立つと、まるでロボットのような動作で、
「ご指導お願いします!!」
と、デカい声で、ケツバット指導を願い出る。その言い方は、県立一高の硬式野球部において、荒井監督が部員に伝授したそれとは違い、「指導」の部分をやや強調しつつゆっくり言い、そしてあとは短く一気に言うため、「シドーーネガイシャス!」に聞こえる。
その指導願い出の言い方は、荒井監督が現役球児時代のそれとも違っていた。
良太がオヤジの前でやったケツバット指導願い出の所作をみて、荒井監督は確信する。それは、荒井監督が現役球児だった時代の指導者である小島監督の一代前の監督であり、「閻魔(えんま)の不来方(こずかた)」と呼ばれていた、不来方不二雄(こずかた ふじお)監督の時代に行われていたケツバット指導願い出の所作であることを。
そして、「閻魔の不来方」には伝説があった。
「閻魔の不来方」は、県商・硬式野球部の納会で、自身が普段から球児指導のために使っていたノックバットと同じサイズの木製バットを、
「これからの人生、くじけそうになったときは、このバットをみて、自分に喝を入れてがんばるように!」
と訓示して、引退していく部員一人一人に手渡したのだという。そして、その木製バットには、閻魔の不来方から、部員一人一人それぞれへの「贈る言葉」が書かれていたという。
もちろん、それを受け取る3年生部員は、ひとりの例外もなく、受け取る前に、「シドーーネガイシャス!」と最後の指導を願い出て、回れ右し、自らのおケツを以ってして、そのノックバットを受け取ったのだと言われる。そして、そのノックバットを受け取った部員たちが、やがて成人し、社会にでて家庭を持つようになると、自分の家の床の間にその人生訓が書かれたノックバットをうやうやしく飾るのだという。
一方、荒井監督の高校時代の指導者であった小島監督は、「鬼の小島」とあだ名され厳しい指導者ではあったが、不来方監督のやり方すべてを引き継いだわけではなく、納会におけるノックバット授与の儀式と、そのノックバットは、荒井監督の世代の球児には、すでに伝説となっていたのである。
その「伝説のノックバット」と「閻魔の不来方」から指導を受ける時の所作を、期せずして、丸山良太の家で目撃してしまった荒井監督。血気盛んだった高校球児時代、先輩から「閻魔の不来方」の伝説を聞いて、県商・硬式野球部の伝統を築いてきた先輩OBの方々に対して抱いた憧憬の気持ちが荒井監督の胸の中に沸々とよみがえってくるのだった。そして、荒井監督は、是非とも、そのバットを己のケツに受けてみたいと思うのであった・・・。
そんな思いを抱き始める荒井監督が見守る中、回れ右した良太は、ユニの上着とアンダーシャツの裾をめくり上げ、それを肩までもっていき、落ちてこないように肩がけすると、両手を上げて、生ケツを後ろへプリッと突き出すのだった。
「よし!良太行くぞ!!」とオヤジ。
「シドーーネガイシャス!」と息子。
良太のオヤジは、「伝説のノックバット」を構えて、息子・良太の生ケツに狙いを定める。荒井監督は、その赤色バットに、デカデカと黄色い太文字で、「人生、調子にのるべからず」と描かれているのをみつけ、目をみはる。そして、良太のすぐ調子にのる気質は、オヤジ譲りであることを知り、思わず、ニヤリとするのだった。
オヤジは、約束通り、息子に容赦なかった。思い切り腰を入れたフルスイングで、良太オヤジは、良太の生ケツを
ベチィン!!
と打ち据えたのである。
思わず、「あっ・・・」と声をあげてしまう荒井監督。しかし、良太は、オヤジのケツバットに相当鍛えられているのか、つらそうに「うぅ・・・」といううめき声をあげながらも、ぐっとふんばって、
「シタァ!!」
と、オヤジの指導に感謝の挨拶をするのだった。
「もう一丁!!いくぞ!!」とオヤジ。その宣言に、思わず、息をのむ荒井監督。「まさか・・・一発で、あのオヤジさんも気が済むと思っていたのに・・・」と思う。
「シドーーネガイシャス!」と良太の覚悟を決めた願い出。
しかし、すぐにはバットを振らない良太オヤジ。それはまるで、良太のケツのジリジリと焼けるような痛みが、頂点に達するのを待っているかのようだった。そして、おもむろに、2発目を繰り出す、良太のオヤジ。
ベチィン!!
「うぅ・・・・シ、シタァ!!」
・・・・・・・・・・・・・
その音は、丸山家の隣家である「宮林精肉店」の母屋二階にいる宮林真司の耳にも届いていた。
「良太兄ちゃん、今晩、おじさんからとっちめられるんだろうな・・・」と予想はしていたものの、おじさんのノックバットが良太兄ちゃんの生ケツを強襲する音が耳に飛び込んできて、顔をゆがめる真司。すぐ下の「中庭」で何が行われているのか、覗かなくてもわかっていた。
真司は、あわてて、ラジカセのボリュームを上げ、ヘッドホンをつけて、目をつむって、その音と声が耳に入ってこないようにするのだった。真司が聴く、ラジカセのラジオからは、チャゲ&飛鳥の「万里の河」が流れてきていた・・・。
真司も中1の時、一度だけ、おじさんから生ケツ・ケツバットの指導を受けたことがあった。もちろん、良太兄ちゃんのやんちゃに巻き込まれたのだが、おじさんから絶対にやるなと言われていた「中庭」での硬球キャッチボールを、「大丈夫、大丈夫」と良太兄ちゃんに言われて、つき合わされていたのだった。そして、真司が良太兄ちゃんからのボールを捕り損ねて、倉庫の中に硬球が飛んでいき、在庫の日本酒の一升瓶を5本も割ってしまったことがあったのだ。もちろん、店に出すべき商品を台無しにした罰として、良太兄ちゃんとともに、5発の生ケツ・ケツバット指導だった。その日の晩、ケツが痛くて痛くて、上を向いて寝れなかったこと、ケツの青あざが一週間以上もとれなかったことを、真司は昨日のことのように覚えていたのだった。
<おじさんからのケツバット指導、そして、ちょっと恥ずかしい真司の想い出・・・気になる方はこちらからどうぞ! → プチスペシャル03 男だけの夏休み 〜真司の成長秘話〜>
ベチィン!!
ベチィン!!
あの時の、木製バットが生のケツ肉を打ちのめすあの音が、真司の耳に残っているのか、どんなにラジカセのボリュームを上げても良太兄ちゃんが、おじさんから指導されている音が窓の外から耳に響いてくるようで、真司にとってはつらかった・・・。
「おじさん、一体、何発、良太兄ちゃんのこと、叩くつもりだろうか・・・」
時々、ヘッドホンを耳から離して、外の音に耳を傾けてみる真司。
ベチィン!!
その音はまだ続いていた。そして、苦しそうな良太兄ちゃんの「シタァ!!」の挨拶が耳に飛び込んでくる。思わず、目をギュッとつむりなおし、顔をゆがませる真司。再び、ヘッドホンを耳にあてる。しかし、「万里の河」は終わり、ヘッドホンからの音楽は、一時的に止まっていた。
ベチィン!!
「あっ・・・まただ・・・早く、次の曲、かからないのかよ・・・」
そして、ラジオから、来生たかおの「夢の途中」が流れてくる。
「おっ・・・セーラー服と機関銃の曲だ・・・」
と、真司は、その曲を聴くことに集中するのだった。
・・・・・・・・・・・・・
ベチィン!!
「シタァ!!」
「良太、いま何本目まで来た?」
「えっ・・・」
「このバカヤロー、かぞえてねーのか!!」
「そ、そんなのケツが痛くてわすれちゃったよ・・・」
「よし!!じゃあ、初めからやり直すか!!」
「えーーー」
「な、7本目です!!」
と思わず、荒井監督が言う。
「よし!!荒井監督に免じて数えてなかったことは許してやる!!これまでの7本は、おまえに巻き込まれて連帯責任のケツバットを受けた、お前の同期のヤツらからの分だ!!そして、ラストの一発は、オレからだ!!」
「えっ・・・このオヤジ、しっかり何本にするかを考えて、丸山のことを叱っていたんだ・・・」
と驚く荒井監督。
「よし!!ラストいくぞ!!両脚しっかりふんばって、ケツ、後ろに突き出しとけ!!」
「は。はい・・・・シドーーネガイシャス!」
ベチィン!!
最後の一本も強烈だった。思わず右足を一歩、踏み出しそうになる良太。しかし、オヤジからの最後の一発を、己のケツにしっかり受け止める。
「うぅ・・・シタァ!!いってぇーーー」
そして、挨拶が終わると、良太は、苦しそうにその場にしゃがみこんでしまうのだった・・・。
「オラァ!!男だったら、立って、バットを床の間に戻してこい!!」
と厳しい良太のオヤジ。
「お、おとうさん、いや、丸山先輩!!私にそのバットを、貸していただけないでしょうか?」
「せ、先生にですかい?」
「ええ、明日の納会で、このバットのことを3年生たちに話したいのです。良太君もこれで指導をうけたことですし・・・」
「わかりました!それならば、喜んでお貸ししましょう。」
高校球児にとって、先輩のバットを借用するということは特別の意味を持つ。無断使用ならば、確実に体罰事案である(※)。
(※)PL学園野球部出身のなきぼくろさんの漫画「バトルスタディーズ」コミック版第三巻 Lesson24 白ブタ、カムバック Lesson 25 バトルミーティング を参考にしました。DL学園野球部で、主将のバットを無断使用した1年生の処遇をめぐって、3年生同士が対立し、口頭注意で終わらせようとした主将に対して、一部の3年生はその1年生に体罰を科すべきと主張するエピソードが描かれています。
荒井監督は、「しめた!これでケツバットを願い出る理由ができた!」と思うのだった。
「もちろん、お借りする前に・・・・丸山先輩!!私にもそのバットの使用方法を、ご指導お願いします!!」
と、良太のオヤジに願い出るのだった。
さすが県立商業高校で揉まれた荒井監督だけのことはある。荒井監督は、丸山先輩を一秒たりとも待たせることはしなかった。ユニのズボンと、履き込んだスラパンを素早く脱ぐと、良太がやったように、良太のオヤジの前に立ち、良太よりも何十倍も気合の入った大声で、
「シドーーネガイシャス!」
と先輩のケツバット指導を願い出る。フリチンの荒井監督の陰部の毛と成熟した亀頭が、アンダーシャツの下にチラチラと見える。
「わかりました!!荒井君、いや、荒井!!オレがこのバットで後輩指導法をみっちりと教えてやる!!回れ右してケツを出せ!!」
「ウッス!!」
荒井監督はまるで高校球児に戻ったかのように低い声で返事をすると、回れ右して、ユニ上着の裾とアンダーシャツの裾をペロリとめくり、ケツを後ろに丸出しにする。31歳・荒井監督の成熟したケツは、元球児らしく肉厚で丸くプリッとしているが、良太のケツより色黒で、ケツタブにやや脂肪がついた大人のムッチリケツ。そのドテンと突き出された安定感は、ケツバット耐性という点においても、まだまだ10代の現役球児のケツには負けんぞ!という意地が感じられるものだった。
「シドーーネガイシャス!」
「よし!!いくぞ!!」
良太オヤジは、荒井監督の生尻にも、手加減のなしに、ケツバット指導を入れていくのだった。
ベチィン!!
ベチィン!!
ベチィン!!
ケツバット3連打。それは荒井監督が現役時代の練習の時、投手ノックで3連続エラーして、無表情の後輩から「先輩!!バックホームです!!」とホームベースに呼び戻され、部員たち全員が見守る中、小島監督から受けた恥辱の指導と全く同じだった。
「シタァ!!」
と挨拶すると、教え子の良太が見ていることもはばからず、ケツを両手でさすりながら、
「いってぇ・・・すげぇ、迫力・・・」
とつぶやくのだった。
そして、丸山オヤジの方をむくと、
「ありがとうございました!!先輩のバットをお借りします!!」
と一礼して、両手で、その「伝説のノックバット」を受け取るのだった。
まだケツが痛くて、スラパンがはけない良太が、荒井監督のそばに寄ってくる。
そして、
「監督、オレの言った通りでしょ、うちのとうちゃん・・・・」
と耳打ちするように言うのだった。
荒井監督は、ニヤリとして、
「ああ。すげぇ迫力だったな・・・おまえのオヤジ・・・」
と、やはりささやくように言う。
「監督も、やられちゃいましたね・・・」
「ああ・・・まあな・・・おまえもがんばったな・・・」
良太と荒井監督は、そんなことを言いながら、お互いのケツを見せあっているのだった。
そんな二人をニヤニヤながめながら、自分の役目は終わったと悟ったのか、良太のオヤジは、店の方へと戻っていくのだった。蛇足ではあるが、良太が親戚からもらった合格祝いは、没収のうえ、良太が大学卒業するまでの4年間、オヤジ預かりとなったことを本章の最後に記しておきたい。